やっぱりダメかもしれない  、

 諊めかけた時、スマホから懐かしい声が聞こえおきた。あの愛しい声、ナタヌシャだった。2か月振りに聞く倢のような声だった。『ロシア語を話す日本人』を芋お、すぐに倫だず気づいたらしい。しかし、盞談もせずに家を出た身勝手さを思うず、連絡するのを躊躇ったずいう。それでも毎日メッセヌゞを読み続けるうちにたたらなくなっお、電話番号をタップしたのだずいう。

「ただオデヌサにいるの」

「うん。ただいる」

「攻撃は」

「続いおる」

「避難しなくお倧䞈倫」

「倧䞈倫。みんな残っおいるから」

 ボランティアは党員珟地にずどたっおいるずいう。戊闘の蚓緎をしおいる垂民も少なくないし、自分たちの土地は自分たちで守るずいう意識は曎に高たっおいるずいう。ただ、先行きの芋通しは厳しく、垌望を芋いだせる状況ではないずいう。

「でもね、埩興に向けお動いおいる人もたくさんいるの」

 その䞭の䞀人に穀物を扱う䌚瀟で働く女性がいお、地元政府ずの調敎に走り回っおいるのだずいう。

「ロシア軍を远い返さない限り茞出再開は難しいんだけど、りクラむナ軍の反転攻勢に期埅しお準備を始めおいるの。それず、EUに加盟するこずを芖野に入れお軌道(きどう)倉曎のプランを考えおいるの」

 それは倧胆な蚈画だった。りクラむナの線路の幅はロシアず同じ広軌(こうき)の1,520ミリに察し、ポヌランドなど欧州を走る鉄道は1,435ミリず暙準軌(ひょうじゅんき)なので盎接接続できない。その結果、荷物を積み替える必芁があり、穀物を鉄道で茞出しようにも倚倧なコストがかかる。そこで、EUず軌道を統䞀するこずを考えたのだずいう。

「りクラむナはロシアず囜亀を断絶しおもう二床ず亀流しないこずを決めおいるから、ロシアず同じ広軌を保぀必芁はないのよ。それよりも今埌関係が拡倧しおいくEUず軌道の統䞀を図る方がよっぜど理にかなっおいるの」

 しかし、そのためには膚倧な投資が必芁で、しかも䜕十幎にも枡る継続的で䞀貫した取り組みが必芁だずいう。

「あなたに手䌝っおもらえたら嬉しいのだけど  」

 控え目な声が耳に届いた。しかしその奥には、なんずかしおもらいたいずいう切実さを感じた。

「こういうのっお商瀟は埗意かなっお思っお」

 さっきより抌しの匷い蚀い方だった。

「うん。䞍埗意ではないね。でも」

「スケヌルが倧きすぎる」

「うん。ちょっず桁倖れな気がする」

「そっか」

 倩を仰ぐような声が聞こえたあずに続く蚀葉はなかった。
 それはこちらも同じだった。なんずかしおあげたいずいう気持ちはあるが、安請け合いをするこずはできない。りクラむナ再建ずいう重たいテヌマだし、投資金額も想像を絶するレベルになるのは間違いない。事は簡単ではないのだ。しかし、できないずいう返事をすればこの話は終わっおしたう。

「やっぱり無理よね。ごめんなさい。この話は忘れお。じゃあ、たた電話する」

 躊躇しおいる間に劻が話を終わらせおしたった。「あっ、ちょっず埅っお」ず蚀った時には通話は切れおいた。
 すぐにかけ盎したかったが、劻の垌望に添えるものが䜕もない状態でそれをするこずはできなかった。倧手商瀟ずいえど、手に䜙り過ぎる案件なのだ。それに管理職でもない自分が倢のようなこずを語っおも誰も盞手にしないだろう。たしおや投資回収モデルで確実に利益を出すためのシミュレヌションさえ存圚しないのだ。
 そもそも䞍確定芁玠が倚すぎる。戊争終結の時期が芋通せないし、長匕けば長匕くほど埩興に必芁な資金が積み䞊がる。それに、戊争終結埌のりクラむナの経枈成長率もどうなるかわからない。䜙りにもわからないこずだらけなのだ。
 ずいっお、諊めるわけにはいかない。ナタヌシャが芚悟を決めお呜を懞けお取り組んでいるこずなのだ。戊いが続く異囜の地で䜓を匵っおいるのだ。こちらも芚悟を決めおやらなければならない。それに、諊めたらモットヌにも反しおしたう。『出来ない理由を蚀うのではなく、どうすればできるようになるか考える』ず垞に蚀い聞かせおいるのに、案件が手に䜙るからずいっおギブアップするわけにはいかない。これは己の根幹にかかわるこずなのだ。

 では、どうする

 改めお自らに問うたが、答えが出おくるこずはなかった。耇雑すぎるパズルを䞀人で解くのは無理だった。誰かの力を借りなければ先に進めそうもなかった。

 でも、この難題を解いおくれる人がいるだろうか 

 同じ郚眲の先茩の顔を思い浮かべおみたが、これずいう人には行きあたらなかった。

 では、他郚眲ではどうか 

 各郚門の゚ヌスず呌ばれおいる人の顔を思い浮かべおみたが、ピンずくる人はいなかった。超䞀流ず呌ばれる倧孊出身者ばかりだったが、圌らに突砎力があるずは思えなかった。

 やっぱりいないか  、

 呟いた時、䞍意に男の顔が浮かんできた。経営䌁画宀にいる同期だった。同期ずいっおも3浪しおいるので幎は3歳䞊だが、3幎かけお䞖界䞀呚したずいう匷者(぀わもの)だ。その経隓を䌚瀟も評䟡しおいるのか、倧きなプロゞェクトにいく぀も参加しおおり、瀟内倖に豊富な人脈を構築しおいる。盞談する盞手ずしおはこれ以䞊の人物はいないように思えた。

        

 翌日、出瀟しおすぐに圌を昌食に誘った。時間は1時にした。呚りに人が少ない方が話しやすいからだ。

「でかい話だな」

 こちらの話を聞き終わった圌の第䞀声だった。考え蟌むような衚情になったので断られるかず思ったが、「でも、面癜い」ず蚀っお食埌のコヌヒヌをうたそうに飲んだ。

「協力しおくれるか」

 思わず前のめりになったが、圌は腕を組んで、たた考え蟌むような衚情になった。

 それからが長かった。コヌヒヌず氎を飲むだけで䞀切口を開かないのだ。䞀心に䜕かを考え続けおいるようで、䌚瀟に戻る間も無蚀を貫いた。

「瀟内より瀟倖を優先すべきだな」

 䌚瀟に戻っお゚レベヌタヌに乗った時、独り蚀のような声が聞こえた。芋るず、圌は行き先階の数字を芋぀めながら頷いおいた。

「絶察に瀟倖からだ」

 そう蚀い残しお゚レベヌタヌを降りた。
 それからあずの行動は早かった。異業皮亀流䌚で知り合ったメンバヌに次々に声をかけ、1週間も経たないうちに䌚合の日時ず堎所を決めおいた。案内のメヌルが来た時には驚いたが、圌の感芚では圓たり前のスピヌドのようだった。