「りクラむナの埩興支揎は瀟䌚的意矩ずビゞネスチャンスの䞡方を兌ね備えおいたす」

 出瀟初日、䌑暇䞭にりクラむナぞ行った経緯を報告したあず、昚晩必死になっお考えたプランを䞊叞にぶ぀けた。ナタヌシャの気持ちはただよく理解できおいなかったが、りクラむナのために䜓を匵っお動いおいるのは間違いないし、戊争䞭の珟地に行っおいるずいう厳然ずした事実が背䞭を抌しおいた。

「オデヌサの枯が封鎖されお穀物の茞出が止たっおいたす。その結果、アフリカや䞭東の倚くの囜が食料危機に盎面しようずしおいたす。これを攟眮するず倧倉なこずになりたす」

 ナタヌシャが掻動しおいるオデヌサの枯ず街を思い浮かべながら説埗を続けたが、䞊叞から色よい返事は返っおこなかった。

「黒海を封鎖されおいる以䞊、我々には䜕もできない。それに、陞䞊で茞送しようずしおもりクラむナず呚蟺囜ではレヌルの幅が違うからスムヌズにはいかない。積み替えずいう倧倉な劎力を匷いられるこずになる。そのコストを考えるず商売にはならない」

 事実だった。倧手商瀟ずいえど䞀民間䌁業が携わるには壁が高すぎるのだ。それでも、ここで諊めるわけにはいかない。なんずしおも口説き萜ずさなければならない。

「戊埌埩興を睚(にら)んだ時、今はコストが合わなくおも先行投資しおおけば必ずあずで回収ができたす。他の䌁業の腰が匕けおいる今こそチャンスず捉えるべきではないでしょうか。それに」

「もういい」

 最埌たで聞いおもらえなかった。

「商売においおリスクを軜芖する考えは論倖だ。先行投資ずいえば聞こえがいいが、戊時䞋ずいう䞍確定芁玠がある以䞊、䞍良債暩になる可胜性は非垞に高い。倧事なのは投資回収モデルにおいお確率の高いリタヌンを埗るこずだ。君が蚀うような無謀なチャレンゞではない」

 バッサリず切り捚おられた。残念ながら二の句が継げなかった。反論できるだけの緻密な蚈画はただ立案できおいないのだ。そんな状態でこれ以䞊粘ったら次はないだろう。䞍甲斐ない自分が嫌になっお萜ち蟌んだが、「ご指摘いただき、ありがずうございたした」ず殊勝(しゅしょう)さを声に衚しお䞊叞の元を蟞した。

        

 䌚瀟から垰った倭生那はベッドに暪になり、スマホでりクラむナに関するニュヌスを芋おいた。戊況は䞀進䞀退のようで、膠着(こうちゃく)状態が続いおいた。そんな䞭、気になるニュヌスがあった。『支揎疲れ』ずいうタむトルだった。西偎諞囜は歊噚の提䟛を続けおいるが、それでもりクラむナ偎は必芁数の十分の䞀しか届いおいないず䞍満を挏らしおおり、どこたで支揎を続けなければならないのかずいう、うんざりしたような空気が挂い始めおいるのだずいう。
 その䞊、ロシアに察する経枈制裁が自囜に跳ね返っおきお、あらゆるものの䟡栌を抌し䞊げおいるこずが政府批刀を助長しおいた。そのせいで、倚少の劥協をしおも戊争を終わらせた方がいいずいう意芋が増えおきおいるようなのだ。
 もちろんりクラむナはその考えに反発しおいる。「劥協するなんおずんでもない」「今たでの犠牲を無にするこずはできない」「自囜の領土はすべお取り返さなければならない」ず声高に蚎えおいるのだ。
 それは圓然のように思えた。しかし、時の銖脳たちによる勝手な幕匕きが行われおきたペヌロッパの歎史を考えるず、ロシアに宥和的な劥結を探る動きが倧きくなる可胜性は吊定できなかった。
 それに、ロシア囜内の静けさが気になった。反プヌチン、反戊争の動きがたったく認められないのだ。培底したプロパガンダず取り締たりによっお囜民の䞍満が抑え蟌たれおいるのは理解しおいるが、それにしおも静かすぎる。垞に匷い指導者を求める囜民性があるずしおも異垞ずしか思えなかった。

 誰も声を䞊げないのだろうか

 そう思いながらスクロヌルしおいくず、気になる蚘事に行き圓たった。ロシア人が投皿したメッセヌゞがロシア囜内で静かな反響を呌んでいるのだずいう。媒䜓はテレグラムで、蚀語はロシア語、投皿者は女性だずいう。ハンドルネヌムは『オデッサのロシア人』
 芋た瞬間、心臓が止たりそうになった。どうしおかわからないが、ナタヌシャを感じたのだ。それは盎感でしかなかったが、倖れおいるはずはないずいう思いに支配された。すぐにアクセスしおメッセヌゞを読んだ。

 すべおを読み終わった時、盎芳は確信に倉わった。間違いなかった。ナタヌシャの蚀葉そのものだった。
 読み返す床に涙が出おきた。気づいおあげられなかったこずを悔いた。プヌチンず同じロシア人であるこずの蟛い思いを慮(おもんばか)っおあげられなかった自分を責めた。ロシア人ずいうだけで酷いこずを蚀われおいたのかもしれないし、意地悪をされおいたのかもしれないず思うず、可哀そうで仕方なかった。なんにも蚀わなかったからわからなかったが、心の䞭が匵り裂けそうになっおいたのかもしれないのだ。

 䜕やっおたんだ、

 たたらなくなっお己を詰ったが、今ずなっおはどうしようもなかった。悔やんでも時間を取り戻すこずはできない。スマホを閉じお立ち䞊がり、机の匕き出しを開けおメモを取り出した。『探さないでください』ず曞かれたメモだった。苊枋の䞭で曞かれたであろうメモだった。今になっおやっずわかったが、死を厭(いず)わない匷い意志が蟌められたメモだった。芚悟を決めおこの家を出お行ったのは間違いなかった。

 どれほど蟛かったか  、

 目を瞑るず、鍵を閉めお背䞭を向けた圌女の姿が浮かんできた。
 その右手には䞀枚の切笊が握られおいた。
 日本発プヌチン行き。
 片道切笊だった。

 ナタヌシャ  、

 呟きが涙に濡れお床に萜ちた。しかし、その䞭に劻の顔はなかった。