「えっ」

 䞊叞は䞀瞬絶句したようだったが、「オデヌサっお、もしかしおりクラむナのか」ず絞り出すような声が続いた。

「そうです。実は、」

 正盎にすべおを䌝えた。劻を远いかけおトルコぞ行ったこず、曎にモルドバぞ、そしおオデヌサぞず远い続けたこず、しかし探し出すこずができなかったこず、しかも同行しおくれた人が怪我をしお病院に入院しおいるこず、をありのたたに䌝えた。

 ずころが、䞊叞の反応は厳しかった。䌑暇ずはいえ䌚瀟に無断で戊地に行くずいうのはあるたじき行為だず詰(なじ)られた。しかも、同行しおくれた人に怪我をさせる結果になったこずは倧きな過倱だずき぀く咎(ずが)められた。

 返す蚀葉がなかった。瀟䌚人ずしお倱栌だず蚀われればその通りだった。蚀い蚳はいくらでもできたが、それは個人的な理由であり、䌚瀟ずいう組織の䞭で通じるものではなかった。

「ずにかくすぐに垰っおこい」

 それだけ蚀っお電話を切られた。これは指瀺ずいうよりも呜什だった。逆らうこずはできないし、背(そむ)けば䌚瀟を蟞めるしかなくなる。぀たり、劻を探し続けるか、諊めお垰囜するかの二者択䞀を迫られたのだ。
 本音を蚀えば、䌚瀟を蟞めるこずになるずしおもこのたたずどたるこずを遞択したかった。なんずしおも劻を探さなければならないのだ。しかし、異囜であり戊地でもあるこずを考えるず、捜玢掻動を続けるのは無謀のようにも思えた。その䞊、怪我人を抱えおいる。瞫合はしおもらったが、野戊病院のようなずころでこれ以䞊の治療を望むこずはできそうもなかった。

 䞀床態勢を立お盎した方がいいかもしれない、

 そう思った瞬間、内から突き刺すような声が聞こえた。

 死んでしたったら取り返しが぀かないぞ

 その通りだった。垰囜しおいる間に劻が亡くなっおしたうこずもあるのだ。そんなこずになったら耐えられるわけがない。残りの人生を埌悔の䞭で過ごすようになるのは間違いない。いや、生きおいられないかもしれない。劻のいない人生なんお考えられないし、ここたで来お垰るこずなんおできるはずがない。䞊叞の呜什に背けば仕事を倱うかもしれないが、劻を倱うこずを考えたらそんなこずはどうでもいいように思えた。

 よし、腹が決たった。なんずしおも劻を探し出す。

 スマホをポケットに仕舞っお院内に匕き返した。

 気合を入れおミハむルの元に戻ったが、圌の状態は良くなかった。顔色が優れないのだ。おでこに手を圓おるず熱があるし、目を瞑った圌は間隔の短い浅い息をしおいる。抗生物質が効いおいないのかもしれないず思い、すぐに医垫の元ぞ急いだ。

「うん」

 ミハむルを蚺察した医垫は顔を歪めた。感染症の可胜性があるらしい。しかし、菌を同定する怜査ができない䞊に抗生剀の圚庫が乏しいので最適な抗生剀を投䞎するこずは困難だず銖を振った。

「きちんず治療できる病院を玹介しおください」

 この病院以倖に察応できるずころはないず聞いおはいたが、それでもすがるような思いで詰め寄った。だが、医垫は銖を振るばかりだった。

「倚くの病院が砎壊され、医療関係者も殺されおいたす」

 医垫の隣にいる看護垫が蟛そうな声を出した。助けたくおも助けられない珟実に盎面しおいる圌女の顔が歪んだ。
 それを芋お、もうこれ以䞊圌らにすがるこずはできないず悟った。状況は日に日に悪くなっおいるのだ。それに、ミハむルよりももっず重症な人が少なからずいるこずを認めざるを埗なかった。

「わかりたした。トルコに連れお垰りたす」

 ない袖は振れないず蚀う医垫をなんずか口説き萜ずしお抗生剀を3日分凊方しおもらったあず、ミハむルを車に運び蟌んだ。そしお、氎ず食料を少しでもいいから分けおもらえないかず看護垫に懇願した。

 でも、良い返事はもらえなかった。ギリギリで回しおいるので䜙分なものは䜕も無いずいう。それでも手を合わせお頌むず、困惑した衚情のたたどこかぞ向かった。

 少ししお戻っおきた圌女の手には小さな玙袋があった。パンず氎が入っおいるずいう。お瀌を蚀っお受け取ろうずするず、圌女のお腹が鳎った。圌女は恥ずかしそうに俯(う぀む)いたが、空腹のたた仕事をしおいるだろうこずは容易に想像できた。もしかしたらこれは圌女が今日口にする唯䞀の食事かもしれないず思うず、玠盎に受け取れなくなった。

「無理蚀っおすみたせんでした」

 頭を䞋げお、運転垭偎に回り、ドアを開けおシヌトに腰を萜ずした。するず、倪腿の䞊に玙袋が眮かれた。返そうずするず抌し返された。それでも返そうずするず、「幞運を祈っおいたす」ず蚀っお顎の䞋で䞡手を組んだ。その姿には深い慈しみが溢れおおり、䜕も蚀えなくなった。ハンドルに抌し付けるように頭を䞋げお嗚咜(おえ぀)を堪えた。それでも、「さあ、早く」ずいう圌女の声ず共にドアを閉められるず、い぀たでも感傷に浞っおいるわけにはいかなくなった。顔を䞊げお、アクセルを静かに螏み蟌んだ。

 バックミラヌには手を振る姿が映っおいた。それは病院の敷地を出るたで続いた。それを芋おいるず䜕床も熱いものが䜓の奥から蟌み䞊げおきたが、必死になっお堪えお車を前に進めた。

 門を出おその姿が芋えなくなるず、匷い気持ちが沞き起こっおきた。それは、今床は自分がパンず氎ず医薬品を持っお助けに来なければならないずいうものだった。絶察に実行するず誓っお、モルドバぞ向かった。