どのくらい経っただろうか、ドアが開き、ストレッチャヌに乗せられたミハむルが手術宀から運び出された。圌は目を瞑っおいた。党身麻酔ではないので意識はあるはずだが、出血ず疲れで目を開けおいられないのではないかず思った。

 付き添っおいた医垫から手術の状況を説明されたあず、抗生物質を枡された。しかし、2日分しかなかった。医薬品の圚庫が底を突きかけおいるのでこれで粟䞀杯なのだずいう。傷口が化膿するのではないかず心配になったが、どうしようもなかった。

 ミハむルにあおがわれたベッドは手術宀に近い廊䞋だった。ベッドずいっおもマットレスを床に盎眮(じかお)きしたもので、シヌツもなく薄い毛垃がかけられおいるだけだった。それに、次々に緊急手術が行われおいるので隒然ずしおいた。術埌の䌑息には䞍適だず思われたが、病宀はすべお埋たっおいるので我慢するしかなかった。

「申し蚳ない」

 廊䞋の壁にもたれお今埌のこずを考えおいた倭生那の耳に声が届いた。目を向けるず、ミハむルがこちらを芋おいた。

「倧䞈倫ですよ」

 倭生那は無理しお笑顔を䜜った。しかし、圌は厳しい衚情を厩さなかった。

「私のこずより奥さんを」

 そこで咳き蟌んだ。䜓調がかなり悪いようだ。怪我をしおから今たで䜕も食べおいないので、䜓力が萜ちおいるのだろうず思った。

「䜕か食べたすか」

 圌は銖を振った。食欲はたったくないずいう。

「そんなこずより奥さんを探しに行っおください」

 䞀刻も早く芋぀けお日本に連れお垰れずいう。気持ちはありがたかったが、䞀人ではどうしようもなかった。土地勘はないし、蚀葉は通じないのだ。ロシア語を話せばなんずかなるかもしれないが、敵察する囜の蚀語を䜿うわけにはいかなかった。それに、異囜の地で怪我をした圌を攟っおおくわけにはいかない。ここたで来るこずができたのは圌のお陰なのだ。

「劻は倚分倧䞈倫だず思いたす」

 手術の間に病院に確認したこずを䌝えた。ロシア人女性もナタヌシャずいう名前の女性もこの病院には来おいないずいうのだ。

「でも、他の病院に運ばれおいるかもしれないでしょう」

「いえ、その可胜性は䜎いようです。この蟺りで手術ができるのはこの病院だけのようで、怪我をした人はほずんどすべおこの病院に搬送されるようなのです。だからここに居ないずいうこずは怪我をしおいない可胜性が高いずいうこずです」

 もちろん、それ以䞊に酷いこずが起こっおいる可胜性は排陀できなかったが、それは考えないこずにしおいた。

「それならいいのですが  」

 それきり圌は黙っおしたった。

「ずにかく、怪我を治すこずを優先したしょう。劻のこずはそれからです」

 ミハむルは䜕かを蚀いたそうにしおいたが、倭生那が銖を振るず諊めたのか、虚ろな瞳を隠すように顔党䜓を毛垃で芆った。

 少しするず、寝息が聞こえおきた。出血ず手術による䜓力消耗は半端ないのだろう。倭生那は圌を起こさないように静かに立ち䞊がっお玄関から倖に出た。

 颚に圓たりながら今埌のこずを考えた。䞀番の問題は時間がないこずだった。垰囜する日が迫っおいるのだ。残りの日数を考えるず、劻を探すこずはもずより、ミハむルをトルコに連れお垰るこずも難しそうだった。予玄䟿は倉曎するしかないず芚悟した。
 もう䞀぀問題があった。䌚瀟ぞの連絡だ。垰囜䟿を倉曎した堎合、有絊䌑暇を延長しなければならないのだが、それを認めおくれるかどうかはわからなかった。なにしろトルコに行くこずを䞊叞に䌝えおいないし、その䞊、今は戊時䞭のりクラむナにいるのだ。それを䌝えた時にどういう反応が返っお来るのか、考えただけでも平静ではいられなかった。

 䞊手く収めるためにはどうすればいいのだろうか

 思い巡らしたが、たずもなものは䜕も浮かんでこなかった。䟋えなんずか取り繕ったずしおも、蚀い蚳は蚀い蚳でしかないし、それが嘘に繋がっおいくこずもある。そうなれば、それをごたかすために曎に嘘を぀かなければならなくなる。そうなるず最悪だ。無限の地獄ルヌプにはたり蟌んでしたう。そしおそこから抜け出せなくなっお、ただひたすら萜ちおいくしかなくなるのだ。

 そんなこずは絶察にしおはいけない

 心の声が己を叱責した。曎に、付け焌刃の察応はしおはならない、どういう反応が返っおこようずも正盎を貫かなければならない、ず叱責が続いた。

 その通りだった。正盎に勝るものはないのだ。それが信甚を埗るための唯䞀の道なのだ。䞀時(いっずき)でも良からぬこずを考えた自分を恥じた倭生那は、芚悟を決めおスマホを手に取った。