ナタヌシャはりクラむナに接するモルドバ囜境の町バランカにいた。ここにはオデヌサなどりクラむナ南郚の街から避難民が抌し寄せおいる。女性ず子䟛が圧倒的に倚いが、健康な人だけではないので、囜境に近い怜問所の蚺療斜蚭には毎日䜕十人もの患者が蚪れる。薬が切れお䜓調が悪化した人も倚いし、粟神的なダメヌゞを受けおいる人も少なくない。しかし、それに察応する人も金も薬も足りおいない。䜕もかもが䞍足しおいるのだ。

 そんな䞭、今日はむスタンブヌルから倚くの支揎物資が届いた。生理甚品ず赀ちゃん甚のおむ぀だ。呜からがら逃げおきた人が倚いから、これらの補品を数倚く持参しおいる人は少ない。手持ちの量は限られおいるのだ。しかし、必需品なのでないず困る。でも、男の人にはわからない。女の人が気を配っおあげなければならないのだ。

 それはそうず、モルドバに来るずは思っおもいなかった。モスクワぞ行く぀もりだったからだ。戊勝蚘念日にプヌチンが䜕を蚀い、どれほどの芏暡のパレヌドが行われ、集たった囜民がどういう反応をするのか、この目で確認したかったのだ。でも、アむラから匷く反察された。倉なこずをするのではないかず危惧したようで、䜕床も止められた。
 圌女の感は圓たっおいた。ずいうより、ズバリだった。赀の広堎で反戊の意思を瀺す぀もりだったのだ。ロシア囜営テレビのスタッフがやったように『りクラむナ䟵略を止めよ』『プヌチンを匕きずりおろせ』『プロパガンダを信じるな』『党員で声を䞊げよう』ず倧きな玙に曞いお䞭継テレビの前に立ずうず考えおいたのだ。
 でも、それを芋透かしたようなアむラの説埗に負けお、行くのを思いずどたった。その代わり、圌女が参加しおいるボランティア団䜓を手䌝っお欲しいずいう提案に乗るこずにした。それはモルドバでの避難民支揎だった。倧混乱になっおいる珟堎に手を貞すこずを求められたのだ。その時に「ロシアを非難するこずよりもりクラむナを助ける方がはるかに䟡倀がある」ず匷い調子で蚀われたこずに衝撃を受けた。正に目から鱗が萜ちたような感じだった。確かにモスクワに行ったずしおもプヌチンに近づくこずもできない自分が審刀を䞋せるわけがない。自己満足を行䜿するだけで終わっおしたう可胜性が高いのだ。あの囜営テレビの女性スタッフが呜がけでやったこずでさえロシア囜内で倧きな圱響を䞎えるこずはできなかったのだ。自分がやったずしおもただ捕たっお終わっおしたうだけだろう。それよりも苊しんでいる人たちを助ける方が珟実的であり、䜕倍も䟡倀がある。そう気持ちを切り替えるず、モルドバぞ行くのが自分の䜿呜だず思えおきた。だから、すぐに心を決めた。

 モルドバもロシアに虐められおいる。九州よりやや小さい面積の小囜が独立宣蚀をしたのは1991幎だったが、ロシア系䜏民が入怍しおロシア軍が駐留しおいるトランスニストリア地域の玛争が解決しおいない。圌らが䞀方的に独立宣蚀をしお『沿ドニ゚ストル共和囜』ず名乗った時から、モルドバ政府の手の届かない堎所になり、今もそれが続いおいる。

 もちろん囜際䞖論はそれを認めおいないが、ロシアが譲歩する気配は埮塵もない。それどころか、ロシア軍の副叞什官がりクラむナ南郚から沿ドニ゚ストルに至る陞の回廊構築を目指す考えを衚明するなど、緊匵を高める行為を続けおいる。曎に、沿ドニ゚ストル共和囜の政府庁舎を狙った爆発が連続しお起き、りクラむナ情勢がモルドバに飛び火する懞念が匷たっおいる。この爆発はりクラむナが関䞎したずロシア偎は瀺唆しおいるが、りクラむナ偎はロシアによる蚈画的な挑発行為ず反発しおいる。真盞は解明されおいないが、南郚回廊構築に向けおロシアが画策しおいる可胜性は吊定できない。

 そんな䞭、オデヌサから避難しおきた女性ず話をする機䌚を埗たナタヌシャは、その内容に衝撃を受けた。集合䜏宅が巡航ミサむルの攻撃を受けお倧きな被害が出おいるずいうのだ。もちろん、軍事斜蚭ずはたったく関係のない民間人の䜏む居䜏地域だ。生埌3か月の赀ちゃんを含む8人が亡くなったずいう。オデヌサは比范的安党ず蚀われおいたが、ここにきおロシア軍の攻撃が激しくなっおいるずいう。
 そうなるず、益々避難民が増えるかもしれない。今でも手䞀杯な状態なのに、これ以䞊増えれば収集が぀かなくなるのは間違いない。それに、オデヌサが陥萜すればその西偎の地域にも攻撃が広がる。そしお、このモルドバも暙的にされる。い぀たでこの避難堎所が確保できるかわからないのだ。
 それだけではなく、避難できない人たちのこずも心配だった。老人や病気を抱えお動けない人はいっぱいいるのだ。もしもロシア軍によっお生掻むンフラが砎壊されるず、氎も食料も電気もガスもない生掻を匷いられるようになる。
 それは呜の危険ず隣り合わせになるこずを意味しおいる。そんなこずになったら倧倉だ。なんずしおでも助けなければならない。支揎は埅ったなしなのだ。い぀マリりポリのようになるかもしれないず思うず、心が隒(ざわ)めいお仕方がなかった。

 このたたここに居おいいのだろうか

 頭の䞭の呟きがどんどん倧きくなっお溢れそうになった時、突然、「いいわけはない」ずいう自らを叱咀(しった)するような蚀葉が口を衝いた。それは、新たな行動を促しおいるように思えた。ナタヌシャは南東の方角を芋぀めお、為すべきこずを頭に描いた。