侍女たちに案内され、私たちはそれぞれの部屋へと通された。
私が案内されたのは、緑を基調とした部屋だった。窓からは美しい中庭を一望でき、日当たりもよく、とても過ごしやすそうな部屋だった。
「それでは、ソフィア様。お荷物はこちらにお運びしております。何かございましたら、机の上に置いてあるベルを鳴らしてくださいませ」
「はい、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、侍女は軽くお辞儀をして部屋を出ていった。
部屋に残されたのは、私とテトの二人きり。
テトはようやく自由になれたと思ったのか、大きく伸びをしてから、ため息交じりに口を開いた。
「まったく……普通の猫のフリをするっていうのも楽じゃないわね」
「ご、ごめんね、テト。ここに来るまで、普通の猫のフリをしてもらっちゃって」
そう。私はここに来るまで、テトには普通の猫として振る舞ってほしいと頼んでいたのだ。
ムニンもまた、アレスのペットということにして、彼の肩の上で大人しくしていた。
「だいたい、なんでこの私が普通の猫のフリをしないといけないのよ。普通に使い魔として紹介してくれてもよかったじゃない」
「しょうがないよ、テト。ヴァリス・エテルニタスでは、使い魔の持ち込みは禁止されているんだから」
そう、ヴァリス・エテルニタスでは、エテルナの審判が開催されている間、使い魔を連れて入ることはもちろん、召喚することさえも禁止されている。
はっきりとした理由は分からないけれど、大会の規則でそう定められているのだ。
「持ち込みって、人を物みたいに言わないでちょうだい。私はソフィアの保護者よ?」
「保護者じゃなくて、使い魔でしょ?」
私がそう返すと、テトは不満そうに鼻を鳴らした。
私は苦笑しながら荷物を置き、街へ出かけるための準備を始めた。必要最低限の物を小さな鞄に移し替えていると、テトは窓辺へ軽々と飛び乗り、そのまま腰を下ろして中庭を眺め始めた。
「ふん、いいわよ。当日は元の姿になって、みんなを驚かせてあげるわよ」
そんなことを呟いているとは知らず、私は出かける準備を続けていた。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「ソフィアちゃん、準備はできましたか?」
扉の向こうから、エルさんの声が聞こえてきた。
「あ、今行きます!」
私は慌てて鞄を手に取り、扉へと向かった。部屋を出る直前、ふと思い出してテトの方へ振り返る。
「それじゃ、テト。お留守番、頼んだからね!」
「はいはい。気をつけていってらっしゃい」
テトはこちらを振り返ることなく、返事の代わりに尻尾をひらりと振ってみせた。
……やっぱり、機嫌が悪そう。
窓辺に座るテトの横顔からは、まだまだ不満が残っているのが伝わってきた。
普段のテトは、一日の大半を自由気ままに過ごしている。けれど、今回は事情が事情だけに、どうしても行動を制限してしまっている。そのことに、テトは納得がいっていないようだった。
街を見て回るついでに、テトに何かお土産を買ってこよう。
そう心に決めた私は、テトを部屋に残し、廊下へと出た。
廊下に出ると、案の定、エルさんがニコニコとしながら待っていてくれた。
けれど、私の視線はすぐに彼女の服装へと引き寄せられた。
「あれ? エルさん、着替えたんですか?」
ここへ来るまでのエルさんは、白と淡い藤色を基調とした優美なドレスを身に纏っていた。
金糸の繊細な刺繍が胸元や裾を彩り、幾重にも重なった薄絹のスカートが、歩くたびにふわりと揺れていた。背中からは透き通るようなヴェールが長く流れ、白い花と金色の羽根をあしらった髪飾りが、長い金髪を華やかに飾っていた。
清らかな光と気品を纏ったその姿は、まさに光の巫女にふさわしい装いだった。
けれど、今、目の前にいるエルさんは、先ほどとはまったく違う衣装に身を包んでいた。
白銀と淡いブルーを基調としたドレスには、金色の繊細な刺繍や装飾が随所に施され、胸元では青い宝石が輝いている。幾重にも重なったフリルのスカートは、裾に向かって青から白へと色を変え、肩から広がる透け感のあるマントが優雅に揺れていた。
長い金髪には白い花をあしらった髪飾りが添えられ、足元には白い編み上げブーツが覗いている。衣装全体に散りばめられた金色の装飾が、清楚な色合いの中に華やかさを添えていた。
清らかな光を思わせるその姿は、華やかさの中にも気品が感じられ、思わず見惚れてしまうほどだった。
「どうですか?」
エルさんはそう尋ねると、その場でくるりと一周してみせた。スカートとマントがふわりと広がり、光を受けてきらめく。
「とても素敵です! 前のドレスもすごく綺麗でしたけど、こちらは動きやすそうですね」
「はい。私がラスールを出るときに、エーデルが持たせてくれたのです。あちらの世界でエア様たちと旅をしていたときも、似たような服を着ていたのですが、エーデルが新しく仕立ててくれたのですよ」
エルさんは、嬉しそうに微笑みながら教えてくれた。
あちらの世界で旅をしていたときのエルさんの衣装も気になるけれど、今の衣装も本当に素敵だ。
目の前で嬉しそうに微笑むエルさんを見ながら、私は心からそう思った。
私が案内されたのは、緑を基調とした部屋だった。窓からは美しい中庭を一望でき、日当たりもよく、とても過ごしやすそうな部屋だった。
「それでは、ソフィア様。お荷物はこちらにお運びしております。何かございましたら、机の上に置いてあるベルを鳴らしてくださいませ」
「はい、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、侍女は軽くお辞儀をして部屋を出ていった。
部屋に残されたのは、私とテトの二人きり。
テトはようやく自由になれたと思ったのか、大きく伸びをしてから、ため息交じりに口を開いた。
「まったく……普通の猫のフリをするっていうのも楽じゃないわね」
「ご、ごめんね、テト。ここに来るまで、普通の猫のフリをしてもらっちゃって」
そう。私はここに来るまで、テトには普通の猫として振る舞ってほしいと頼んでいたのだ。
ムニンもまた、アレスのペットということにして、彼の肩の上で大人しくしていた。
「だいたい、なんでこの私が普通の猫のフリをしないといけないのよ。普通に使い魔として紹介してくれてもよかったじゃない」
「しょうがないよ、テト。ヴァリス・エテルニタスでは、使い魔の持ち込みは禁止されているんだから」
そう、ヴァリス・エテルニタスでは、エテルナの審判が開催されている間、使い魔を連れて入ることはもちろん、召喚することさえも禁止されている。
はっきりとした理由は分からないけれど、大会の規則でそう定められているのだ。
「持ち込みって、人を物みたいに言わないでちょうだい。私はソフィアの保護者よ?」
「保護者じゃなくて、使い魔でしょ?」
私がそう返すと、テトは不満そうに鼻を鳴らした。
私は苦笑しながら荷物を置き、街へ出かけるための準備を始めた。必要最低限の物を小さな鞄に移し替えていると、テトは窓辺へ軽々と飛び乗り、そのまま腰を下ろして中庭を眺め始めた。
「ふん、いいわよ。当日は元の姿になって、みんなを驚かせてあげるわよ」
そんなことを呟いているとは知らず、私は出かける準備を続けていた。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「ソフィアちゃん、準備はできましたか?」
扉の向こうから、エルさんの声が聞こえてきた。
「あ、今行きます!」
私は慌てて鞄を手に取り、扉へと向かった。部屋を出る直前、ふと思い出してテトの方へ振り返る。
「それじゃ、テト。お留守番、頼んだからね!」
「はいはい。気をつけていってらっしゃい」
テトはこちらを振り返ることなく、返事の代わりに尻尾をひらりと振ってみせた。
……やっぱり、機嫌が悪そう。
窓辺に座るテトの横顔からは、まだまだ不満が残っているのが伝わってきた。
普段のテトは、一日の大半を自由気ままに過ごしている。けれど、今回は事情が事情だけに、どうしても行動を制限してしまっている。そのことに、テトは納得がいっていないようだった。
街を見て回るついでに、テトに何かお土産を買ってこよう。
そう心に決めた私は、テトを部屋に残し、廊下へと出た。
廊下に出ると、案の定、エルさんがニコニコとしながら待っていてくれた。
けれど、私の視線はすぐに彼女の服装へと引き寄せられた。
「あれ? エルさん、着替えたんですか?」
ここへ来るまでのエルさんは、白と淡い藤色を基調とした優美なドレスを身に纏っていた。
金糸の繊細な刺繍が胸元や裾を彩り、幾重にも重なった薄絹のスカートが、歩くたびにふわりと揺れていた。背中からは透き通るようなヴェールが長く流れ、白い花と金色の羽根をあしらった髪飾りが、長い金髪を華やかに飾っていた。
清らかな光と気品を纏ったその姿は、まさに光の巫女にふさわしい装いだった。
けれど、今、目の前にいるエルさんは、先ほどとはまったく違う衣装に身を包んでいた。
白銀と淡いブルーを基調としたドレスには、金色の繊細な刺繍や装飾が随所に施され、胸元では青い宝石が輝いている。幾重にも重なったフリルのスカートは、裾に向かって青から白へと色を変え、肩から広がる透け感のあるマントが優雅に揺れていた。
長い金髪には白い花をあしらった髪飾りが添えられ、足元には白い編み上げブーツが覗いている。衣装全体に散りばめられた金色の装飾が、清楚な色合いの中に華やかさを添えていた。
清らかな光を思わせるその姿は、華やかさの中にも気品が感じられ、思わず見惚れてしまうほどだった。
「どうですか?」
エルさんはそう尋ねると、その場でくるりと一周してみせた。スカートとマントがふわりと広がり、光を受けてきらめく。
「とても素敵です! 前のドレスもすごく綺麗でしたけど、こちらは動きやすそうですね」
「はい。私がラスールを出るときに、エーデルが持たせてくれたのです。あちらの世界でエア様たちと旅をしていたときも、似たような服を着ていたのですが、エーデルが新しく仕立ててくれたのですよ」
エルさんは、嬉しそうに微笑みながら教えてくれた。
あちらの世界で旅をしていたときのエルさんの衣装も気になるけれど、今の衣装も本当に素敵だ。
目の前で嬉しそうに微笑むエルさんを見ながら、私は心からそう思った。



