「でしたら、エクレール様。この後、王都の中をご案内させてください」
「えっ! よろしいのですか?」
「もちろんです。この後、皆さんには私の屋敷に滞在していただく予定ですから」
そう言って、カレンは窓の外へと視線を向けた。
「私の家は病院だけでなく、王都で商会も営んでいるんです。お父様が経営している商会ですが、見学させていただけるよう、話を通しておきますね」
「ありがとうございます、カレン! でしたら、なおさら、ここのお食事代はわたくしに支払わせてください」
エルさんはニコニコとしながら、メニューへと向き直った。しかし、嬉しさを隠し切れていないのか、彼女の周りには小さな花たちがふわりふわりと舞っていた。
☆ ☆ ☆
昼食を終えた私たちは、カレンの案内で彼女の屋敷にお世話になることになった。
王都の別荘地には、豪華で華やかな屋敷がいくつも立ち並んでいた。その中でも、目の前にあるカレンのお屋敷は、ひときわ目を引くものだった。
白灰色の石材で造られた重厚な外壁に、深い青紫色の屋根。左右対称に整えられた建物は、どこか厳かな雰囲気を漂わせている。玄関へと続く石畳の両脇には、隅々まで手入れの行き届いた庭園が広がっていた。
壁や柱には繊細な装飾が施されているものの、決して華美になりすぎてはいない。長い年月をかけて受け継がれてきた格式と誇りが、屋敷全体から感じられた。
「す、すごい……!」
思わず感嘆の声が漏れる。
「さすが金持ち……。住む世界が違うな」
隣では、ロキも呆気に取られたように屋敷を見上げていた。
当初、王都ローゼスに滞在している間は、アレスたちと相談して宿やホテルを取るつもりだった。
しかし、先に王都へ来ていたカレンから連絡があり、滞在中は彼女の屋敷にお世話になることになったのだ。
「さあ、こちらへどうぞ」
カレンに案内され、屋敷の中へと足を踏み入れる。
すると、玄関ホールで一人の老執事が私たちを出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、カレン様」
「ええ、ただいま戻りました、ヴァルト」
カレンがそう答えると、ヴァルトは眼鏡の奥から私たちへと視線を向け、恭しく一礼した。
「初めまして。執事のヴァルトと申します。皆様が滞在されている間は、私をはじめ、数名の侍女たちが身の回りのお世話をさせていただきます。どうぞ、ごゆるりとお過ごしくださいませ」
ヴァルトが挨拶を終えると、その背後に控えていた数名の侍女たちも、一斉に頭を下げた。
いったい、いつの間に集まったのだろう。
私とアレス、ロキは、突然のことに思わず目を丸くした。一方、サファイアは面倒くさそうに溜め息を吐いている。
そんな中、この場にいる誰よりもこうした対応に慣れているエルさんは、にこにこと微笑みながらドレスの裾をつまみ、優雅にカーテシーを披露した。
「ご丁寧なお迎えをありがとうございます。わたくしは、エクレール・ストレリチアと申します。ヴァリス・エテルニタスへ向かうまでの間、こちらでお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
エルさんが丁寧に挨拶をすると、ヴァルトをはじめ、侍女たちも再び恭しく頭を下げた。
その所作には少しの乱れもなく、全員が同じ角度、同じ姿勢でお辞儀をしている。
その見事な所作を目の当たりにして、私は改めて、カレンの屋敷に仕える人たちの礼儀正しさに感心した。



