翌朝。
朝靄がわずかに残る、リリウム市の駅。
私は胸の高鳴りを抑えながら、使い魔の黒猫であるテトと共に、大きなキャリーケースを引いて駅へとやって来た。
テトは私の肩に優雅に乗り、金色の瞳で周囲を静かに見渡している。
ホームの指定された場所には、既にアレスとロキの二人が揃っていた。
「おはよう、ソフィア、テト」
私は、先にアレスが到着していることに驚き、疑わしげな視線を向けた。
「おはよう、アレス。今日はちゃんと時間どおりに来てるなんて、珍しいね」
アレスは苦笑しながら、頬をかいた。
「そりゃあ、誘ったのは俺だしな」
「それなら、前の時も同じように時間を守って来てほしかったものね」
そう言って腕を組み、私は怒ったふりをした。
アレスのことだから、今日も絶対に遅刻してくると思っていた。でも、今日は珍しく時間どおりに来ている。
アレスもアレスで、ヴァリス・エテルニタスへ向かうのを楽しみにしているのかもしれない。
そんなことを内心で考えていると、アレスの隣にいたロキが、私の目の前へと歩み出た。
「おはよう、ソフィアちゃん。今日も朝から一段と綺麗だ。良かったら、王都に着くまで俺と二人きりにならない?」
そう言いながら、ロキはいつものように私の両手を握り、口説き始めた。
今日はカレンがこの場にいない。となると、ロキを止められる人はいないのでは……?
私がそんなことを考えていた、その時だった。
「その手を離しなさい!」
アレスの腰にあった魔剣エクレールが、眩い光と共に人の姿へと戻った。
そして、ロキが握っていた私の手を上から思い切り叩くと、そのまま私をロキから引き離した。
「いってぇ!!」
ロキは叩かれた手の甲に涙を浮かべ、痛そうに何度も息を吹きかけている。
そのあまりにも痛そうな様子に、私たちは思わず顔をしかめた。
一方、エクレールさんは私をぎゅっと抱きしめると、アレスとロキに向かってびしっと指を突きつけた。
「ソフィアちゃんの隣は私の席なのです。なので、絶対に譲りませんから!」
まるで恋敵でも見るかのように、アレスとロキを敵視するエクレールさん。
その姿に、私は苦笑するしかなかった。
――やっぱり……エクレールさんは、私のことが大好きなんだ。
改めてそう実感していると、肩の上のテトが「やれやれ」とでも言いたげに、大きな欠伸をした。
そんな騒ぎの傍らで、アレスの足元に座っていた狼人族の使い魔、ムニンが駅の改札に設置された魔導具を指さした。
改札の上部に設置された巨大なクリスタル盤には、『王都ローゼス』行きの運行情報が、エメラルドグリーンの光文字で浮かび上がっている。
「アレス、そろそろ電車が出る時間だぞ」
「ああ、分かっている」
アレスは苦笑しながら答えた。
私たちは荷物を手に、列車へと向かった。
私たちが乗り込んだのは、お父様が手配してくれた専用の豪華列車――『シルヴァー・ウィスパー号』。
その内部は、移動中であることを忘れてしまいそうなほど、優雅なスイートルームになっていた。



