路面電車に乗って、長崎駅で降りた。ここも人が多かったが、諏訪神社近辺とは比べ物にならなかった。ここなら待たずに入れる店があるだろうと思って、駅付近を歩き回った。すると、表通りから少し入った先にのぼりが見えた。『トルコライス』と書いてあった。
トルコライス?
なんだそれ?
長崎でトルコ料理?
何か関係あったっけ?
恐る恐る店の扉を開けると、ほぼ満席だったが、カウンターに空きがありそうだった。入口のところで立ち止まっていると、店員が近づいてきた。
「いらっしゃいませ」
素敵な笑顔に思わず見惚れてしまった。それにメチャ可愛くて、一瞬ボーっとしてしまった。
「カウンターでよろしいですか?」
また飛び切り可愛い顔で見つめられた。
「ハ、ハイ」
彼女の左頬のえくぼに気を取られて、近くのテーブルにぶつかりそうになった。
「何になさいますか?」
「トルコライスって……」
どんな料理か訊こうとしたが、「トルコライスですね」と注文票に書き込まれてしまったので、訊きそびれてしまった。それに、忙しそうだった。すぐに背を向けてキッチンカウンターの方に向かうと、注文票を置いたと思ったら次のテーブルに料理を運んでいき、すぐさま小走りでレジへ向かった。そんな彼女の姿を目で追っていると、何人かの若い男性客も同じように彼女の姿を追っていることに気がついた。彼らは彼女を目当てに来ているようだった。
そうだろうな、これだけ可愛かったら誰でもそうするよな、
勝手に合点した。
*
「お待たせしました」
トルコライスがテーブルに置かれた。
えっ、これがトルコライス?
大皿の上に、〈ピラフ〉と〈スパゲティ〉と〈トンカツ〉がサラダと共に盛り付けられていた。
なんでこれがトルコ料理なの?
名前の由来が気になったが、腹の虫の催促に押されて一気にガツガツと食った。
うまい! この濃い味がたまらない。
やっと腹の虫が泣き止んだので、水をごくごくと飲みほしたあと、彼女の姿を探した。
レジにいた。しかしすぐに接客を始め、相変わらず忙しく動き回っていた。彼女が接客中はオーナーらしき男性がレジを打っていたが、オーナーには興味がないので、彼女がレジを打つ瞬間を待つことにした。
今だ!
彼女がレジに向かっていた。
早くしなければ、
急いで立ち上がって、レジの方へ走るように足を進めた。その時、目の前のテーブルの若い男性が急に立ち上がった。とっさに避けたが、
痛っ!
向こう脛をテーブルの脚の角に思い切りぶつけてしまった。
グ~、かなり痛い。
グ~~、
向こう脛に手を当ててうずくまった。
「大丈夫ですか?」
レジ対応が終わった彼女が心配そうに声をかけてきた。でも、大丈夫じゃなかった。返事ができなかった。すると彼女はどこかに行き、すぐに戻ってきた。
「これで冷やしてください」
保冷剤だった。それをタオルに包んで持ってきてくれたのだ。受け取って患部に当てると、腕を取って椅子に座らせてくれた。
「しばらくここでお休みになってください」
向こう脛を心配そうに見ながら、彼女が気遣ってくれた。
「ありがとうございます」
痛さに顔をしかめながらも、できるだけ丁寧に礼を言った。



