――学校からの帰り道。
 私と佐知は肩を並べたまま校門を出た。
 蝉の大合唱が蒸し暑さを後押しして、額に汗がびっしりと浮かぶ。
 佐知はハンディーファンを当てたまま、私の襟元をひょいと覗いた。
 
「最近そのネックレス、よくつけてるね」

 私は、「あ、これ?」と言いながら、ワイシャツの中からネックレスを取り出した。
 彼女はじっと見つめた後、うんうんと頷く。

「うん、それ。へぇ〜、よく見たら小さい模様が入ってるんだぁ。すっごく似合ってる」
「……これは、青空くんからのプレゼント」

 彼が唯一残してくれた大事な宝物。
 最近、無意識のうちに触ってしまう。
 
「青空くんって、意外とセンスあるね!」
「でしょでしょ! すごく気に入ってるんだ。ほら、私ってさ、赤い色が好きだからね」

 プレゼントしてくれた時のことを思い出すと、口元が自然に緩み、目が細くなった。
 どんな顔をしながら選んでくれたのかなって、想像するだけで嬉しくなっちゃう。
  
「実はさ、青空くん、美心の誕生日プレゼントなにがいいかって、私に聞いてきたんだよ」
「えっ、そうなの?」

 私はきょとんとした目を向けた。
 
「美心と仲直りした直後だったから、あんまりいいアドバイスはできなかったけどね」

 彼女はハンディファンに目線を落として、当時を振り返っているような様子を見せた。

「サプライズパーティーをしようって言ったら、飾り付けの提案をしてくれたんだよ」
 
 彼はいつも私が笑顔になることを考えている。
 指先がソワソワして、思わずネックレスに触れる。

「それと、どうして美心の力になるのか気になって聞いたら、美心の笑顔が幸せな気持ちになるってね」
「……そんなこと、言ってたんだ」
「ホントに日本人かって疑っちゃうくらい、バカ正直だったよね」
「私も同じことを思ってた。一瞬、告られてるのかなって勘違いしたこともあったし」

 過去を思い返した瞬間、クスッと笑った。
 慌てていた自分が、なんか逆に恥ずかしかったよ。
 
「でも、そういうところも含めて好きだったんだ」
「美心……」

 佐知は切ない瞳を、私に向けた。
 
「不器用だけど、まっすぐに気持ちを伝えてくれたんだよ。だから、諦められない……」
 
 鈴をぎゅっと握りしめたまま青い空を見上げて、彼を想う。
 『世界で一番大好きだ』って言ってくれたこと、一生忘れない。
 ふと空に浮かぶ笑顔に、瞳が熱く潤んだ。
  
「あ、そうだ! これから駅前のカフェに行かない? 今日から新商品が始まったんだよねぇ〜」

 佐知は私の顔を見て、ニコリと微笑んだ。
 多分、私が感情的になってたから、気を使ってくれたんだろう。
 でも、首を振った。

「誘ってくれてありがとう。でも、また今度」

 これから行くところがある。
 きっと、彼と繋がっていられる、唯一の場所――。