どれくらい時間が経っただろか、ふっと体が軽くなり、強いGを感じなくなった。目を開けると、ディスプレーの表示は『音速モード』に変わっていた。
 それに慣れてきた時、更に体が軽くなった。表示は出ていないが、『低速モード』に切り替わったのは間違いないようだった。終点にかなり近づいているのだろう。

「どうなっているのかしら……」

 目を開けた彼女が怯えたような声を出した。

 世界は終末直前まで行っているのだろうか? 
 着いた途端、この世は消滅するのだろうか? 

 そんな怯えが声だけでなく彼女の体を震わせているように感じた。

 少しして、音もなく『2080年7月7日午前』という表示が表れた。すると同時に、雷鳴が轟き、目の前のディスプレーに暴風雨が映し出された。荒れ狂う風が大樹を揺らせていた。葉や枝は(もてあそ)ばれ、今にもちぎれて飛んでいきそうになっていた。
 いきなり閃光が走った。それが息の根を止めるように大樹を貫くと、更に追い打ちをかけるように竜巻が襲いかかった。もはや大樹に抵抗する力は残っていなかった。根元から折れて地面に叩きつけられると、断末魔が空気を切り裂いた。それは、千年の命が無残にも奪われた瞬間だった。しかし、それだけでは終わらなかった。目の前が真っ暗になり、意識が消えた。

「今仁さん!」

 空中に浮遊するわたしの魂が彼女の声を聞いた。彼女は真っ青になっていたが、異変が起こったのはわたしだけではなかった。

「アッ!」

 悲鳴を上げた瞬間、彼女の首がガクッと折れた。ディスプレーには目を閉じて息をしていない老いた女性の姿が写っていた。