目が覚めてから、松山さんが遺してくれたCDをラジカセにセットした。レッド・ツェッペリンの『Ⅳ』というアルバムだった。バンド名もアルバム名も記されていないから『Ⅳ』というのは俗称でしかなかったが、いつしかその名で呼ばれるようになったということと、全世界で何千万枚も売れた大ヒットアルバムということをネットで検索して知った。

 表紙のデザインがとても印象的だった。剥がれかけている壁に1枚の油絵が掛けられていて、そこには大きな薪を背負った老人の姿が描かれている。その腰は90度近くに曲がっており、薪の重さに耐えかねるように杖を両手で持って体を支えている。

 この絵は何を意味するのだろうか? 

 その表情からは希望というものが感じられなかった。しかし、絶望でもないように思えた。

 とすると……、

 思い浮かんだのは〈諦め〉という言葉だった。改めて老人の顔を見ると、悲しそうでも苦しそうでもなかった。間違いなく諦めの表情だと思うと、その老人の顔から目が離せなくなった。耳の中にはハードなロックが響いていたが、その違和感に心が押しつぶされそうになった時、突然、曲が変わった。
 生ギターのアルペジオに導かれるように『Stairway to Heaven』が始まった。その音色は老人の運命を暗示するかのような哀しげな響きだったが、ロバート・プラントが歌い始めると、運命を受け入れたような穏やかな表情で階段を上っていく彼女の姿が目の前に浮かんできた。