「ところで、プチケーキって……」
カウンターに置いたビニール袋を指差した。
「あっ、これ、あなたにと思って。鈴の御礼です。それに今日はクリスマスだから。でも26日になっちゃったけど……」
俺はまたボリボリと頭を掻きながら袋を彼女の方に動かした。
「開けてもいいですか?」
袋から箱を出しながら俺を上目遣いに見たので、頷いて「どうぞ」と言うと、彼女はセロテープを丁寧に剥がしてから包み紙を綺麗に外した。蓋を開けると、中から10個のプチケーキが現れた。
「わ~、可愛い」
少女のような顔になった彼女がまた上目遣いに俺を見た。
「一緒に食べません?」
えっ、ここで?
でも、そんなわけには……、
困惑したような表情を浮かべているであろう俺を見て、彼女が舌をペロッと出した。
「そうですよね、仕事中にそんなことダメですよね。なに言ってるんだろ私」
右手を拳にして頭をぽかりと殴るような仕草をした。それがまた可愛かった。抱きしめたいと思った。彼女の髪に口づけたいと思った。それから……と想像を逞しくしていくと、俺の下半身が反応し始めた。一人で勝手に恥ずかしくなって、彼女から視線を外した。
「何時までですか?」
箱を包み直しながら発した彼女の声がカウンターに反射して俺の耳に届いた。
「6時までです」
すると俺の後ろの壁に掛かっている丸時計を見て、「あと1時間くらいですね」と微笑んだが、包み終えてビニール袋の中に戻した彼女は少し首を傾げて何かを考えているような表情になった。
「仕事が終わって店を出たら、道路の反対側の建物の3階を見てください」
そこに彼女の住まいがあるのだという。俺が頷くと、右手にビニール袋を持って、左手をちょっと上げて、小さく頷いてからドアに向かった。
ドアが開いて、彼女が振り返った。左手で指を3本立てて、右目でぎこちなくウインクらしきものをした。俺は指を3本立て返した。それを見て安心したような表情でくるりと振り向き、ドアを出ていった。
つづく』



