次の日から松山さんは仕事が終わったあとの食事にわたしを誘わなくなった。さっさと帰ってしまうのだ。多分、レッド・ツェッペリンの曲を聴きまくっているのだろう。「じゃあな」と言ってすたこら帰っていく彼の後姿を見送ったあと、他に誘う人もいないので、牛丼屋やラーメン店で一人飯を続けた。
*
1週間が過ぎた。
仕事が終わると、彼が近寄ってきた。
「よろしくな」
「こちらこそ」
「じゃあな」
会話はそれだけだった。彼はすぐに背を向けて、すたこらと帰っていった。
その後姿を見つめながら、わたしは瞬時に眠れるようにいつもより多めに酒を飲むことにした。だから、飲食店には寄らずにコンビニでつまみとビールを買った。『マーボーもつ煮込み』と『炙り辛子明太子』に『ちょっと辛めのエビチリ』、そして『ピリ辛ホルモン鍋』と、ビールが進むように辛い物だけを買って帰った。
シャワーを浴びたあと、チンしては飲み、チンしては飲みを繰り返すと、ビールのロング缶が3本空いた。それで結構酔いが回ったが、もうひと押し足りないように感じたので、芋焼酎をロックで2杯飲んだ。
いい気持ちになっていたら、松山さんと約束した8時半まであと10分になっているのに気がついた。慌てて歯を磨いて、布団に横になった。時計はあと1分を指していた。
カウントダウンが始まった。
ゼロになった瞬間、目を瞑った。
でも、眠ることはできなかった。
体は疲れていたし酔っぱらっているから眠れるはずなのだが、まったく眠気がこなかった。
3分が過ぎた。
ヤバイ!
布団をはねのけて台所へ行き、紙パックからコップに芋焼酎を注いで、今度は生地のまま一気に飲んだ。そして、体中に早く回るように軟体動物ダンスをして、くにゃくにゃと全身を揺らした。すると、血の巡りと共に芋焼酎が回っているような気がしたが、念のためにもう一度一気飲みをして、軟体動物ダンスを繰り返した。
よし、これで大丈夫だ、
急いで布団に入って、目を瞑った。それでもすぐには眠れなかったが、必死になって睡魔を呼び寄せると、大きなあくびが立て続けに3回出た。異次元の扉が開いたようだった。すぐにその中へ誘われていった。



