第24話_神座を外す
封印作業は半ばで止まっていた。止めたのは、結花だ。彼女は台の上から、港と祠と町を一度に見渡し、息を吸って吐いた。「ここで終わらせない」
光が首を傾げる。「終わらせない?」
「鏡を眠らせるだけなら、今のままで足りる。でも、それでは寂しさが残る。寂しさは、また扉を開ける。—だから、鏡の座を外して、橋の柱にする」
ざわめきが、潮に混じる。空が地図を押さえ、歩美が筆を止める。沙耶香は槍の穂先を下げる。静は拍を止め、太鼓に両手を置いた。拍のない静寂が、広場の天井を少し上げる。
結花は例え話を待たず、自分の言葉で続けた。「王女と町のどちらかを選ぶやり方は、もう古い。どちらも選ばない“第三の橋”を作る。鏡は神座に置くと誰かを見下ろす。柱にすれば、誰も見下ろさない。見上げるだけ」
光が笑い、「見上げる首は、折れにくい」と足した。人々の肩から力が少し抜ける。
実務の段取りは、ここから速かった。さとみが柱用の鍔の当たり面を示し、惇が角を落として舟底に合う曲率を作る。空は港の動線を中央へ寄せ、歩美が条文に「鏡柱は公共財」と書き込む。勇気が船員たちの直感を借り、「ここなら風が逃げる」と指差し、貴之が霊脈の流れと重ねる。静は、拍を戻す。戻した拍は、行進の拍ではなく、工事の拍。
王家軍の残党は、まだ引かない。だが、刃の角度が変わった。相手が見るのは敵ではなく、柱の立つ位置だ。視線が変われば、足も変わる。沙耶香が短く「礼」と言い、槍を立てて通路を開ける。通るのは、さとみの台車。台車に乗っているのは、鏡の座を外すための道具—蒸気鎚の子。
台の上で、結花は王女に向かって小さく頭を下げた。声は出さない。代わりに、約束を指で示す。薄い板を背負ってきた。今日、渡す板は厚い。厚い板は、一枚で足りる。
作業が始まった。鍔を当て、鍵を差し、蒸気鎚の子でひと打ち。鏡は、身じろぎした。二打目で、座が鳴り、三打目で外れた。外れた座は、祠の影に眠る。鏡は倒れない。柱の形で、港の中央に立つ。潮の力が左右に割れ、人の流れが中央で細くなる。細いところは、守りやすい。
光が声を張った。「見上げるものができた! 人も妖も、同じものを見上げる!」
群衆の息が揃う。華が拍手を先に叩き、子どもが真似をし、大人が続いた。拍手は、太鼓より軽く、風より速い。静が笑い、太鼓の縁を軽く一度叩いた。港が、ひとつになった音がした。
封印作業は半ばで止まっていた。止めたのは、結花だ。彼女は台の上から、港と祠と町を一度に見渡し、息を吸って吐いた。「ここで終わらせない」
光が首を傾げる。「終わらせない?」
「鏡を眠らせるだけなら、今のままで足りる。でも、それでは寂しさが残る。寂しさは、また扉を開ける。—だから、鏡の座を外して、橋の柱にする」
ざわめきが、潮に混じる。空が地図を押さえ、歩美が筆を止める。沙耶香は槍の穂先を下げる。静は拍を止め、太鼓に両手を置いた。拍のない静寂が、広場の天井を少し上げる。
結花は例え話を待たず、自分の言葉で続けた。「王女と町のどちらかを選ぶやり方は、もう古い。どちらも選ばない“第三の橋”を作る。鏡は神座に置くと誰かを見下ろす。柱にすれば、誰も見下ろさない。見上げるだけ」
光が笑い、「見上げる首は、折れにくい」と足した。人々の肩から力が少し抜ける。
実務の段取りは、ここから速かった。さとみが柱用の鍔の当たり面を示し、惇が角を落として舟底に合う曲率を作る。空は港の動線を中央へ寄せ、歩美が条文に「鏡柱は公共財」と書き込む。勇気が船員たちの直感を借り、「ここなら風が逃げる」と指差し、貴之が霊脈の流れと重ねる。静は、拍を戻す。戻した拍は、行進の拍ではなく、工事の拍。
王家軍の残党は、まだ引かない。だが、刃の角度が変わった。相手が見るのは敵ではなく、柱の立つ位置だ。視線が変われば、足も変わる。沙耶香が短く「礼」と言い、槍を立てて通路を開ける。通るのは、さとみの台車。台車に乗っているのは、鏡の座を外すための道具—蒸気鎚の子。
台の上で、結花は王女に向かって小さく頭を下げた。声は出さない。代わりに、約束を指で示す。薄い板を背負ってきた。今日、渡す板は厚い。厚い板は、一枚で足りる。
作業が始まった。鍔を当て、鍵を差し、蒸気鎚の子でひと打ち。鏡は、身じろぎした。二打目で、座が鳴り、三打目で外れた。外れた座は、祠の影に眠る。鏡は倒れない。柱の形で、港の中央に立つ。潮の力が左右に割れ、人の流れが中央で細くなる。細いところは、守りやすい。
光が声を張った。「見上げるものができた! 人も妖も、同じものを見上げる!」
群衆の息が揃う。華が拍手を先に叩き、子どもが真似をし、大人が続いた。拍手は、太鼓より軽く、風より速い。静が笑い、太鼓の縁を軽く一度叩いた。港が、ひとつになった音がした。

