週末、ついに黒瀬を家に招待する日が来た。玄関で靴を脱ぎながら、少し胸がざわつく。

「じゃあ、入って」

 声をかけると、黒瀬はにこっと微笑んで上がってきた。

「お兄さんが友達連れて来たー!!」

 すぐに妹と弟が駆け寄り、黒瀬に飛びつく。

「わわっ、黒瀬ごめん......!」

 慌てて謝る俺に、黒瀬は優しく笑いながら手を伸ばし、二人に話しかける。

「二人とも夏希にそっくりだな」

 ちょっとした会話を交わしたあと、俺たちは部屋に上がった。
 少し緊張する。高校に上がってからは誰かを家に呼ぶのは初めてだ。

 黒瀬がふと顔を上げて、じっと俺を見つめる。

「なぁ、どっか変わったと思わねぇ?」

 俺は一瞬ドキッとしながら答える前に、視線が黒瀬の口元に。

「えっ......舌も開けたのか!」

 黒瀬は照れくさそうに笑い、でもどこか誇らしげな表情を見せた。

 俺は思わず吹き出しながらも、胸がじんわり熱くなる。
 
 部屋で少し落ち着いたあと、俺は意を決して黒瀬に声をかけた。

「......なあ、黒瀬」

 黒瀬が顔を上げて俺を見る。何か期待しているような、柔らかい目。

「ん、どうした?」

 深呼吸して、思い切って言う。

「......俺、ピアス開けてほしい」

 その言葉に、黒瀬の目が一瞬大きく見開かれる。

「えっ......夏希、前に痛いから嫌だって言ってたよな?」

「......そうだけど、でも、俺も黒瀬見てたら開けてみたくなった」

 言いながら顔が熱くなるのを感じる。黒瀬の頬も少し赤い。

「......そうかよ......」

 照れくさそうに視線を逸らす黒瀬に、俺は思わず頬をゆるめる。

 手元に置いた小さな箱を取り出し、ピアッサーを差し出す。

「これ、買ってきた。さっきまで耳冷やしてたから......」

 黒瀬がそっと手を伸ばして俺の手を取る。

「......ほんとに俺が開けていいのか? 病院行くほうが安全だって、言ったのに」

 俺は少し笑って頷く。

「でも......黒瀬に開けてほしい」

 その言葉に、黒瀬は一瞬息を止めたように見え、次の瞬間、耳元に顔を近づける。息がかかって胸がドキドキする。

「なんだそれ、ちょーかわいい」

 俺は心臓が飛び出そうなくらい緊張する。手を握り返して、視線をそらさずに黒瀬を見つめる。
 黒瀬も同じように俺を見つめ返して、わずかに笑っている。

 ピアッサーを耳元に当てる瞬間、彼の指が触れるたびに体が熱くなる。

「......いくぞ」

 低く囁かれた声に、息を呑む。

 ――少し痛いけど、でも、黒瀬と一緒だから大丈夫な気がした。
 ピアスが通る瞬間、思わず小さく声が漏れて、黒瀬が優しく耳たぶを押さえる。

「......よし、大丈夫だ」

 息を落ち着けながら微笑む黒瀬の顔を見て、胸の奥までじんわりあったかくなる。

 俺は思わず黒瀬の肩に頭を寄せた。

「ありがとう......黒瀬」

 ピアスを開け終わった黒瀬が、俺の耳たぶをそっと指先でなぞった。指先はあったかくて、少し震えている。

「......痛くないか?」

「うん、大丈夫」

 黒瀬は安心したように笑ったけど、その目はどこか真剣で、じっと俺の顔を見つめてきた。

「......なあ、夏希」

 低い声に、胸がドキッとする。

「なに?」

 黒瀬は俺の耳元に顔を寄せ、ふっと笑う。

「これから......その耳、見るたびに俺のこと思い出してよ」

 囁くような声。耳にかかる吐息がくすぐったくて、体がびくっとなる。

「......え?」

 黒瀬は微笑みながらも、瞳の奥は熱くて、どこか独占的だった。

「俺が開けたんだ。これ、俺だけのもの......って思いたい」

 指先でまた耳たぶをなぞる。

 黒瀬の指先が耳たぶをなぞると、思わず小さな声が漏れた。

「んっ......」

 その瞬間、黒瀬はすっと体を近づけて、俺を抱き寄せた。胸に顔を埋める感覚に、思わず顔が熱くなる。

「......黒瀬、俺......お前のものだよ」

 恥ずかしさと強い想いを混ぜて囁くと、黒瀬は一瞬驚いたような表情をしたあと、優しく笑った。

 見つめ合う目の奥に、甘く熱い光が宿る。黒瀬の唇が、俺の唇に重なった。
 いつもより少し深く、舌が入ってきて、くすぐったさと同時に妙に気持ちいい感覚が広がる。

 腰に回された手の力に、体が自然と黒瀬にくっつく。息が絡む距離に、俺の心臓はバクバクして止まらない。

「......んっ......黒瀬......」

 甘く絡むキスの感触に、思わず名前が漏れる。

 舌ピが唇の中で軽く当たるたび、くすぐったくて、でも、心地よくて――黒瀬の温もりに体も心も染まっていく。

 抱きしめられたまま、俺は確かに感じた。
 こいつに全部見られて、全部を預けられるんだ――って。

 黒瀬の舌ピが軽く唇に触れて、くすぐったさと心地よさが入り混じる。
 体を抱きしめられたまま、俺は深呼吸して目を閉じる。

「......夏希」

 黒瀬の低く甘い声に、胸がドクンと鳴った。

「なに?」

 つい耳元に顔を寄せる黒瀬に、俺は頬を赤くしながら訊く。

「今度さ、一緒にピアス見に行こう」

 意外な宣言に少し驚く。でも、黒瀬の瞳には楽しそうな笑みが浮かんでいた。

「今度は俺が選びたい」

 優しく言われて、俺は思わず笑った。

「......じゃあ、楽しみにしてる」

 黒瀬はもう一度ぎゅっと抱きしめて、耳元で囁く。

「そのピアスを見るたび、俺のこと思い出せよ」

 頷くと、さっき俺が上げたピアスがふわりと揺れた。
 光を受けて小さく輝くそれを見て、黒瀬の笑顔が胸に沁みる。
 風がカーテンを揺らし、これから続く幸せな時間を優しく包んだ。