朝起きたときは小雨だったのに、メイとキイの散歩帰りには本降りになってきてしまった。
「あー、かなり降ってきちゃった」
俺が慌ててメイとキイを小屋に戻していると、悠介がこちらに向かって走ってくるが見えた。
「琥珀、雨がかなり降ってきちゃったね。メイとキイの散歩は終わった?」
「うん。大丈夫だよ。今、終わったところだから」
「傘被らないと濡れちゃうよ?」
「は? 傘を被る?」
「あー、えっと標準語だと、傘をささないと……か」
悠介が自分がさしてきた傘に、俺も入れてくれる。男二人で一つの傘に入るのは窮屈過ぎるから、俺はさりげなく悠介から体を離した。
「なぁ、雨が上がらないと花火大会中止になっちゃう?」
「どうかなぁ? 天気予報では午後には止むって言ってたけど」
「俺、どうしても花火大会行きたい!」
「でも、さすがに雨はどうすることもできないしなぁ」
「……だよなぁ」
俺がガッカリと肩を落とすと、「琥珀兄ちゃん!」と俺のことを呼ぶ声がする。振り返ると功丞と宗助もこちらに向かって走ってくる。
「見て、功丞と宗助でテルテル坊主作ったの! これ、琥珀兄ちゃんにあげる」
「琥珀兄ちゃん、雨が止むといいね!」
「ありがとう。二人で一生懸命作ってくれたんだ?」
「うん! 花火大会行けるといいね」
「功丞と宗助がテルテル坊主を作ってくれたから、きっと晴れるよ!」
功丞と宗助から小さなテルテル坊主を受け取る。二つのテルテル坊主はにっこりと微笑んでいてとても可愛らしい。
心の中が温かくなって、俺はテルテル坊主を抱き締めた。
功丞と宗助が作ってくれたテルテル坊主のおかげか、夕方には雨が上がり、空は茜色に染まっていた。
「悠介、急いで! 電車が出ちゃうよ!」
「大丈夫だって。まだ発車しないから」
「だって、この電車を逃したら次は一時間後なんだぞ?」
俺は逸る気持ちを抑えきれず電車に乗り込む。いつもは数えられるほどしか乗客がいない車内が、花火大会のせいか混雑している。
「結構デカい花火大会なんだな?」
「うん。長瀞で開催される花火大会は規模が大きいから、琥珀きっとびっくりすると思う」
「へぇ、楽しみだなぁ」
「それに、今ちょうどお盆だから帰省してきた人や、観光客で会場は賑やかだと思うよ」
「まぁ、どうにかなるんじゃん?」
なんて余裕をかましていた俺は、会場について度肝を抜かれてしまう。会場は人でごった返し、前に進むことさえままならない。
目の前には大きな川が流れており、有名な岩畳に座って花火を見学することができるらしい。川には火が灯された灯篭がたくさん流されていて、幻想的な雰囲気が漂っていた。
「すげぇ、綺麗だなぁ」
「ほら、琥珀行くよ」
「わ!」
「ほら、危ないから手を繋いで。琥珀、意外とボケーッとしているから、絶対に迷子になる」
相変わらずの子ども扱いだけれど、悠介は躊躇うことなく俺と手を繋いでくれる。こんな大勢の中で男同士が手を繋いでいたら、一体どんな風に思われるんだろうか……。でも、悠介があまりにも自然に手を繋いでくれるものだから、そんなことはどうでもよく思えてくる。
俺ははぐれないように、悠介の手を強く握り返した。
「ここなんてよくない?」
「あー、ようやく座れる場所が見つかった」
「ラッキーだったね。ちょっと高台だから、普通は登れないだけかもしれないけど」
ようやく座れる場所を見つけた俺たちは、岩畳に座り込む。岩畳と言っても、岩が連なっているだけで、畳があるわけではない。できるだけ場所をとらないようにと、俺たちは体を寄せ合って腰を下ろした。
ようやくの思いでゲットした、お茶と焼き鳥。それに焼きそばを広げる。苦労して並んだだけあって、どれも美味しそうだ。
「え? 悠介、フランクフルト買ったの?」
「うん。焼き鳥買ったお店で、フランクフルトも売ってたよ?」
「えー、いいなぁ。俺もフランクフルト食いたい。すごく太くて油が乗ってて美味しそう。でも今から並ぶなんて面倒くさいし……」
「いいよ。一口あげるよ?」
「マジで! いいの!?」
「はい。あーん」
「え? あーん?」
俺は突然目の前に差し出されたフランクフルトを前に固まってしまう。俺はこの差し出されたフランクフルトを「あーん」と口を開けて食べればいいのだろうか。
恥ずかしさと食べたいという思いが、俺の心の中で葛藤を繰り返す。それでもどうしてもフランクフルトが食べたい俺は意を決して「あーん」とフランクフルトにかぶりついた。
「めっちゃ美味しい! ねぇ悠介、もう一口食べていい?」
「いいけど……」
「あ、ごめん。俺の一口デカすぎた?」
「違う。俺の個人的な事情だから、遠慮せずに食べていいよ」
「うん。じゃあいただきます」
フランクフルトを噛めば嚙む程、肉の脂がジュワッと口の中に広がっていく。満面の笑みを浮かべる俺の横で、悠介は顔を手で覆っている。不安になった俺は、悠介の腕を引っ張った。
「なぁ、悠介、急にどうしたの?」
「いや、別に……」
「いいから言えって! 気になるだろう!」
俺が悠介を問い詰めると、真っ赤な顔をしながらポツリと呟いた。
「なんか、フランクフルトを頬張る琥珀がエロイなって思っただけ……」
「エロイ……なッ⁉ なに言ってんだよ⁉」
「なに? 琥珀、俺を誘ってんの?」
「べ、別に誘ってなんか⁉」
「そういう無意識が、一番質が悪いんだぜ? 琥珀、俺が男だってわかってる?」
「わ、わかってるけど……」
「じゃあさ、あまり刺激しないで? 俺だって色々我慢してるんだから」
「我慢……? なんだよ、それ……」
「だからさぁ……」
そんな口論をしているうちに、まるで口笛のような音がしたかと思ったら空高く一筋の光が一気に駆け上がっていく。なんだ? と思う間もなく、暗闇に大輪の花が咲く。少し遅れて耳をつんざくような音が聞こえた。
「わぁ‼」
その瞬間、大きな歓声が上がり、割れんばかりの拍手が会場に響き渡った。
「すげぇ。花火だ!」
息をつく間もない程、次から次へと花火は打ち上げられて、大輪が夜空を彩っていく。そのあまりの綺麗さに、先程までの口論なんてすっかり忘れてしまった。
「待って、花火が落ちてきそう!」
「そうなんだよ! 本当に近くで花火を見ると、落ちてきそうに見えるから怖いよな」
「でも、めちゃくちゃ綺麗だ!」
花火が上がる音に掻き消されないよう、俺たちは顔を近づけて会話をする。それが少しだけ恥ずかしい。
もしこの花火が打ち上がる音に紛れて、悠介への本当の思いを叫んだら、果たして彼に届くだろうか。届いてほしいけれど、掻き消されてほしい。俺の心が大きく揺れた。
「悠介、花火大会に連れてきてくれてありがとう。俺、こんなに綺麗だとは思わなかった」
「そんなに気に入ったならさ、来年もまた来よう」
「来年も?」
「うん。来年だけじゃなくて、再来年も、その次の年も……。ずっとずっと一緒に来よう」
「うん」
悠介の顔が赤く見えるのは、花火のせいだろうか。花火が打ち上げられる音と同じくらい、俺の心臓もドキドキしている。
これって、きっと――。
花火と花火の合間。辺りは少しだけ暗闇に包まれた。
高鳴る心臓はうるさいままだし、息だって苦しい。体はやけに火照るし、意味もなく泣きたくなってくる。俺は隣に座る悠介の手をギュッと握った。
「苦しい、でも、俺幸せだ……」
「琥珀、急にどうした?」
全てを打ち明けよう。そう思えた。
「なぁ、悠介。なんで俺が秩父に来たかを聞いてくれる?」
「どうしたの? 突然。前は話したがらなかったのに」
「でも俺、どうしても悠介に聞いて欲しくて」
「わかった。ちゃんと聞くから話して?」
今にも泣きそうな俺の髪を、悠介が優しく撫でてくれる。その筋張った大きな手が心地いい。俺はうっとりと目を細めた。
「俺さ、ゲイなんだ。ずっと隠して生きてきたんだけど、高校二年になって初めて一つ年上の彼氏ができたんだ。俺、凄く嬉しくてさ……。でも、その人はいつまでたっても俺に触れてくることはなかった」
「ふーん」
「ちょっと、過去の話なんだからヤキモチ妬かないでよ」
「わかってるって。いいから話を続けてよ」
明らかに面白くないといった顔で俺を見る悠介を宥めて、俺は話を続けた。
「だからさ、俺勇気を振り絞って先輩にお願いしたんだ。『手を繋いでください』って。そしたら……」
「そしたら?」
その時のことを思い出すだけで、心がズキンと痛みだす。悠介は俺の頬を優しく撫でてくれる。この笑顔に、俺はもう何度も救われてきたんだ。
「そしたら、『やっぱり男と手を繋ぐなんて気持ちが悪い。琥珀は可愛い顔をしているからいけるかな? って思ったけどやっぱ無理だわ』って言われちゃった」
「なんだよ、それ……」
「あまりにもあっけらかんと言われたから、俺も『そうですよね、気持ち悪いよね』って笑ってごまかしたけど、本当は物凄く傷ついた」
「…………」
「結局、その後すぐにフラれちゃった。俺は元々人付き合いが下手だけど、それがトラウマになって学校に行くことができなくなっちゃってさ。家に引き籠った俺を心配した母親が、気分転換して来いって、秩父に送り出したっていうわけ」
楽しい花火大会が台無しにならないよう、冗談ぽっく笑って見せたけど、やっぱり涙が溢れてきてしまい……。俺はそっと手の甲で涙を拭った。
「今更だけど、時々先輩からやり直したいって連絡がくるんだ」
「はぁ⁉ なんだよ、それ。元さやなんてしたら、俺許さないからな」
「するわけないじゃん。だって、俺凄く傷ついたんだもん」
「そっか。そんなことがあったんだね。なんで急に琥珀が秩父に来たか理由がわかったよ」
その時――。幾筋もの光の筋が空へと駆け上り、再び大輪の花を咲かせる。夜空に咲いた大輪の花は、長くはその姿を留めずにキラキラと光の粒となり消えていった。
次から次へと打ち上がる花火に胸が熱くなる。花火って、こんなにも綺麗だったんだ。
「でも俺は、琥珀と手を繋ぎたいよ」
「ん? 聞こえない! もっと大きな声で言って!」
「俺は、琥珀と手を繋ぎたい!」
「なんで!?」
「だら(だから)、琥珀のことがずっと好きだったって言ってるだんべぇ(言ってるだろう)! めった(何回も)言わせんな! 恥ずかしいだんべぇに(恥ずかしいだろうが)!」
「あははは! だから秩父弁で話されてもわからないんだって」
拗ねた顔をしながらも俺の手をギュッと握ってくれる悠介。まるで頭上から降ってくるような花火が打ち上がるたびに、心の中にある氷が砕け散っていくような気がした。
「俺は悠介のことが……」
「なに⁉ 花火の音で聞こえねぇ‼ 琥珀ももっとでっけぇ(大きな)声で話せってばよ(話してくれ)!」
「後で言う‼ ……多分!」
「多分⁉」
「うん。多分言う‼」
「だから、そういうんが(そういうのが)気になるだんべぇ(気になるだろう)‼」
こんなの子供の喧嘩だ。でも楽しくてしょうがない。
花火みたいに悠介の笑顔もキラキラと輝いて、俺は心の底から楽しかった。
「ほら。帰りもはぐれないように手を繋ぐぞ」
「うん」
「足元よく見ろよ。転がると危ねぇから」
「わかった」
俺が素直に頷きなからそっと体を寄せると、突然悠介が顔を真っ赤にして振り返る。
「琥珀が素直過ぎると、それはそれで怖いんだけど」
「だって、俺も悠介と手を繋ぎてぇもん」
「そっか……」
悠介といると、こんなにも楽しくて胸がドキドキする。
でも、もうすぐ夏休みが終わりを迎える。今日見た花火のように、楽しかったこの思い出も消えていってしまうのだろうか。
「帰りたくないな」
俺は繋いだままの悠介の手をギュッと握り締めたのだった。
◇◆◇◆
俺たちが最寄り駅についたのは終電だった。
まだ花火が打ち上がっている音が聞こえるような気がするし、体だって震えている気がする。それくらい、花火大会は感動的なものだった。
悠介は電車の中でもずっと手を繋いでくれていた。「疲れたなら、俺に寄りかかって寝ててもいいよ」という、優しい言葉が嬉しい。
自宅の最寄り駅についた時には、もう辺りは真っ暗闇だった。誰もいない改札口に向おうとした時、「悠介!」という声が聞こえたから、俺と悠介は同時に後ろを振り返る。振り返った先には四人の男女がいて、こちらに向かって手を振っている。
あ、手を離さなきゃ――俺は咄嗟に悠介の手を振り払おうとしたけれど、悠介は俺と手を繋いだまま「おー! お好み焼き以来じゃん」なんて笑っていた。
「ねぇ、悠介、手を離して……」
「は? なんで? 別にいいじゃん」
俺は戸惑ってしまい、悠介を見上げた。男同士で手を繋いでるところを見られたら、悠介が後で何と言われるか……。
「悠介たちも花火大会の帰りなん?」
「おう。お前たちも? 今年も綺麗だったな」
「うん。めっちゃ綺麗だったね!」
悠介と仲よさそうに話している女の子たちが、俺に視線を移して目を輝かせた。ヤバイ、俺の背中に冷たい物が流れていく。
「あれ? もしかして君が琥珀君? はじめまして! あたしたち悠介と同級生で、保育所から一緒なんだよ」
「あ、どうも……」
「悠介からいつも話、……って言うか惚気話を聞かされてるんよ。『琥珀は可愛い。琥珀はマジで可愛いんだ』って。でも悠介の言う通り、本当に可愛いんだね」
「いや、そ、そんなこと……」
「悠介がぞっこんなのも頷けるね! 本当に可愛い! 会えて嬉しいなぁ」
女の子たちは俺たちのことを軽蔑するどころか、笑顔で話しかけてくれる。悠介が「おい、琥珀が困ってるだろう」と仲裁に入ってくれるが、そんなことはお構いなしだ。
「琥珀君も、この前の同窓会に来ればよかったんに。俺たちも、琥珀君と話してみたかったな」
「そうだよ、今度はおいで? みんな喜ぶからさ!」
「そうそう! あー、でも悠介が連れてくるわけないか。悪い虫がつく……とか言ってさ」
「そりゃそうだ! 悠介、本当に琥珀君一筋だもんな」
「うるせぇよ。黙れ」
みんなが楽しそうに話しているけど、俺たちを冷やかしたり、茶化したりしている雰囲気なんて全然ない。純粋に俺と仲良くしたいと思ってくれているんだな、っていうのが伝わってきて、俺の胸が熱くなった。
「じゃあ、悠介、琥珀君、またね」
「今度は遊ぼうな」
笑顔で手を振ってくれる悠介の友達を見送る。俺には、皆の反応が予想外過ぎて、会話らしい会話なんてできなかった。
「ごめん。賑やかな奴らでびっくりしただろう?」
「ううん、そんなことない。それより、男同士で手を繋いでいるところを見て、何も言わなかったことにびっくりした」
「あー、それは……」
悠介が照れくさそうに鼻の頭を掻く。
「俺が小さい頃から、あいつらに琥珀の話ばっかりしてたからだと思う」
「俺の話を?」
「そう。琥珀は可愛いんだって……。ずっと言ってきたから……」
「……そうなんだ」
それを聞いた俺は、恥ずかしくて視線を落とす。でも、そんな昔から自分のことを好きでいてくれたなんて、本当に嬉しい。
「みんないい人たちだね」
「保育所の頃からずっと一緒にいるから、兄弟みたいなもんだよ」
「そっか。なんかヤキモチが妬ける。みんなは、俺の知らない悠介を知ってるんだな」
「え? 本当に? 琥珀がヤキモチ妬いてくれるなんて、マジで超嬉しいんだけど」
「馬鹿が。単純すぎるだろう? でも、秩父の人ってみんないい人だな」
「うん。みんな優しいし、近所付き合いとかも残ってるから、みんなで助け合って生きてるって感じだよな」
「そっか。なんかいいな、そういうの」
二人で顔を見合わせて笑う。俺は人付き合いが苦手だったけれど、こういうのも悪くないと思えるようになっていた。
秩父に来て、自然と触れ合って、優しい人と接して……。少しずつ自分の考え方も変わっていく。
きっと、悠介が俺を変えてくれたんだ。
「なぁ、悠介。今俺が、ここで東京に帰りたくないって言ったらどうする?」
「え?」
「俺さ、ずっと秩父にいたい。悠介と、一緒にいたい……」
「琥珀……」
「ずっとずっと、秩父にいたい」
「どうしたの、急に……」
頬を膨らませて拗ねる俺の髪を、悠介が優しく撫でてくれる。俺は顔を上げてから、照れ隠しに悠介を軽く睨んだ。
「そんなこと言わないで。東京に帰したくなくなるから」
「悠介……。俺、寂しい」
「俺だって寂しいよ。琥珀と離れたくなんかない。ずっとずっと一緒にいたい」
そう言いながら、俺をギュッと抱き締めてくれる。初めて悠介に抱き締められて、鼓動が少しずつ速くなっていく。洋服越しから伝わる悠介の体温が心地いい。
こんな夜遅いのに、山の奥からヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。それに今熊に遭遇しても、きっと悠介が山に追い返してくれるだろう。だから、怖くなんてない。
「帰ろう、琥珀」
「また、手を繋いでくれる?」
「うん。手を繋いで帰ろう」
照れくさそうに笑う悠介が、そっと俺の手を握ってくれた。
「なぁ、悠介。手を繋ぐって、こんなにも幸せなことなんだな」
「そうだね、家に帰るまでずっと手を繋いでいよう」
「うん。ありがとう」
やっぱり帰りたくない。俺はそう言いたかったけれど、悠介を困らせたくなくて、その言葉をやっとの思いで心の中に封じ込める。
俺はこんな田舎が大嫌いだった。熊は出るかもしれないし、コンビニどころか自動販売機だってない。朝四時には起きてヤギの散歩にだって行かなくちゃならない。
でも、ヒグラシの少しだけ寂しそうな鳴き声は心が落ち着くし、風鈴の音色は心地いいし、蚊取り線香の香りだって好きだ。
いつの間に、俺はこんなにも秩父が大好きになっていたんだろう――。
「やっぱり、帰りたくないなぁ……」
「ん? どうした?」
「なんでもない」
突然体を寄せた俺に驚いたのか、悠介が俺の顔を覗き込む。
「なんでもない」
「ふふっ。琥珀は本当にめんこいな」
「悠介、本当に色々ありがとう」
俺はそう呟いてから、悠介に向って微笑んだ。



