「本当に田舎って最悪だよなぁ。あー、また蚊に刺された! 秩父では蚊に食われたって言うんだっけ……。痒い、痒いー!」


 俺は腕に止まっていた蚊を手で叩き落とそうとしたものの、逃げられてしまった。
 秩父には武甲山(ぶこうざん)という大きな山があり、秩父市内はグルッと山に囲まれた盆地だ。車に乗って街中まで行けばコンビニはあるけど、悠介の家みたいにド田舎になってしまうとコンビニなんてものはない。店だって十九時には閉まってしまうところが多いし、とにかく虫が多い。


 加えて夜道を歩けば狸や鹿に遭遇することもあり、身の危険を感じることも多い。
 それでも夕暮れ時になると、空が紫色に染まり幻想的な世界へと姿を変える。縁側には涼しい風が吹いて、風鈴が心地よい音を鳴らす。蚊取り線香の懐かしい香りが鼻腔を擽り、目を閉じてヒグラシの声に聞き入ると、何とも心穏やかになっていくのを感じた。
 夕日が沈んだ後には空一面に星が広がり、その瞬く音さえ聞こえてきそうな気がする。満月の夜は、月が明るくて電気をつける必要もないくらいなのだ。


「でも、やっぱり田舎は不便過ぎる! 近くにあるバス停の最終のバスが十六時ってどういうことなんだよ?」
「仕方ないじゃん。電車だって一時間に一本しかないし、都会みたいに遅くまで走ってないもん。出掛けるなら、俺の自転車使ってもいいよ?」
「秩父の道は上り坂ばっかで、自転車なんか乗ってられるかよ!」
「もう、琥珀は本当に文句ばっかりなんだから」
「だいたい、夜はみんな何して過ごしてるの? 二十時過ぎると、辺りは真っ暗じゃん」
「だいたいみんな、明日の早起きに備えて二十一時までには寝るんだよ」
「はぁ⁉ そんなのつまんなくないか?」
「そんなことないよ。朝日と共に目を覚ますなんて気持ちいいじゃん!」
「ごめん。ちょっと俺には理解できない……」
 そんな苦情を悠介にぶつけたことがあったけれど、悠介はいつもみたいに笑っていた。



 それでも、秩父に来た翌日から俺は朝の四時には起きて、悠介の家の畑に向かい農作業の手伝いをするようになった。と、言っても俺に任された仕事は、ヤギのメイとキイの散歩なのだけれど――。


「今日もよろしく頼むからな。とにかく道草はしないこと。それから、三十分後にはここに戻ってくること。わかったか?」
「メエ―メエ―」
「本当にわかってる?」
 俺は大きく息を吐きながら二匹分のリードを握り、散歩へと向かう。それでも散歩に慣れてきた俺は、二匹をさりげなく進みたい方向へ誘導することができるようになってきた。


 そして最近は、悠介の双子の弟である功丞(こうすけ)宗助(そうすけ)も散歩についてくるようになった。元々子供は得意ではない俺も、悠介に似て人懐こい二人のことは可愛く感じていた。
「琥珀兄ちゃん、功丞はね、ケンケンパができるんだよ」
「宗助はね、高くジャンプができるの」
「へぇ、凄いじゃん! 今度琥珀兄ちゃんに見せてよ!」
「いいよ! 見せてあげるね」
 三人と二匹の散歩も悪くはない。俺は、文句を言いながらも、この田舎生活にも慣れてきていた。そして、こんな生活も悪くないのかもしれない……と、感じてしまっているのだ。
「あー、人間の環境適応能力って怖いなぁ」
 俺はポツリと呟く。


「ねぇ琥珀兄ちゃん。ずっと秩父にいてよ。功丞、琥珀兄ちゃん大好き!」
「俺も琥珀兄ちゃん好きだよ!」
 そう笑う功丞と宗助の笑顔は、どことなく悠介に似ている。
「でも、夏が終わったら俺は帰らなくちゃなんだ」
 真っ青な空には大きな入道雲が浮かび、朝から蝉の大合唱が聞こえてくる。道端に生えた向日葵が、太陽に負けじと大輪の花を咲かせていた。
それに、こうやって散歩をしていると「いいあんべぇです」と近所の人が挨拶をしてくれる。都会にはない温かな人々の交流も悪くはない。


「ずっとここにいるのも悪くないのかな……」
 ハッと我に返った俺は、「そんなはずはないだろう!」と頭を振って雑念を振り払ったのだった。


◇◆◇◆


 ヤギの散歩が終わってから、俺は祖父母の店の手伝いもするようになった。年老いた祖父母に店を任せきりにしては申し訳ないという罪悪感は勿論あるのだが、俺は小さい頃から祖父母が和菓子を作っている風景を見るのが好きだった。
 餡子や水飴を使って作り上げられる和菓子は、まるで芸術品のようにも思えたし、どうしてこんなにも綺麗なものが作り出せるのだろうと、不思議でもあった。


 今は天然氷を使ったかき氷が大人気のようで、毎日店先には長蛇の列ができている。天然の氷を使ったかき氷はフワフワとしているのが特徴で、十種類以上のシロップが用意されている。
 和室を一室休憩所にしてかき氷を食べられるようにしているのだけれど、いつもお客でいっぱいだ。見かねた俺が祖父母の店の手伝いをするようになると、悠介も手伝ってくれるようになったのだった。


「ねぇねぇ、お兄さん、ここのバイト? 超可愛いじゃん。写真撮ってインスタにあげていい?」
「はぁ、それはちょっと……」
「いいじゃん。じゃあ、連絡先教えてよ? お願い!」
 若い店員が珍しいのか、女の子に声をかけられることが増えて、正直俺はうんざりしていた。そんな時に「こいつシャイだから、勘弁してあげてください」と悠介がさりげなくフォローをいれてくれる。
「ヤバイ! こっちにはまた違う雰囲気のイケメンがいる!」
「背が高くてかっこいいですね!」
悠介は当り障りなく女の子たちの相手をしているようだけれど、悠介がいなければ、とっくに俺は音を上げていたかもしれない。


「あー、ようやくお客さんが途切れたね。琥珀、お疲れ」
「てか、氷がなくなったんだよ。悠介も手伝ってくれてありがとう」
「最近、テレビの旅番組で秩父の特集をやることが多いから、今年は特に人が多かったよ」
「そうなんだ。こんなのをよく、じいちゃんとばあちゃん二人で切り盛りしてたなぁ」
「本当だよね。でもこれからお盆が来るから、牡丹餅とか、仏壇に供える和菓子作りで大忙しになると思うよ」
「そっか……。俺、全然そんなこと知らなかった」
「そうだね。離れてると、わからないだろうね」
「うん。俺、知ることができてよかったって思う」
 疲れた顔なんて見せずに「こうちゃん、ありがとうね」と笑う祖父母を見たら、もっと早くに手伝いに来てやればよかった……と、後悔してしまった。


 悠介が縁側に寝転んだから、俺も隣に寝転ぶ。相変わらず蝉はうるさいけど、真っ青な空を流れていく雲を眺めているのは面白い。俺は、ポツリと口を開いた。
「俺さ、小さい頃、和菓子職人になりたかったんだ」
「へぇ、凄いじゃん。この店を継ぎたかったとか?」
「うん。俺、じいちゃんとばあちゃんが和菓子を作っているのを見てるのが好きだったんだ。お菓子なのに、まるで硝子細工みたいに綺麗で……。俺もいつか、あんな和菓子を作ってみたいって思ったんだ」
「今はなりたいとは思ってないの? そういった専門学校に進学する希望があるとか?」
「昔、そう思ってただけだから……。今は特に考えてない」
「ふーん。そっか」
 何となく気まずくなった俺は、悠介に背中を向ける。なんで俺は、こんなことを悠介に話してしまったんだろうか――。今になって恥ずかしくなってしまった。


「でもさ、琥珀が和菓子職人になったら秩父に帰ってくるだろう? そしたら、俺嬉しいなぁ」
「は?」
 びっくりした俺が悠介のほうに体を向けると、いつものように笑っている。その笑顔を見た俺の鼓動が、一気に高鳴っていった。
「その笑顔、本当にやめてくれ……。心臓がドキドキして苦しい。どうしたらいいのか、わかんなくなる……」
 呼吸さえ苦しくなってきた俺は、悠介のシャツをギュッと掴む。心の中がグチャグチャで泣きたくなってきた。そんな俺を、悠介が心配そうに覗き込んでくる。


「どうしたの、琥珀? 疲れちゃった?」
「違う。そんなんじゃねぇから」
「そっか。でも、琥珀が本当に和菓子職人になって秩父に来てくれたら、俺本当に嬉しいなぁ。だって、そうしたら、ずっとこうやって一緒にいられるじゃん」
「俺は、こんな田舎なんか御免だ」
「そっか。でも、俺は琥珀と一緒にいたいな。琥珀といると楽しいし」
「俺は田舎が嫌いだ。不便で仕方ねぇ」
「でも俺は、琥珀と一緒にいたいもん」
「俺は東京に帰りたい」
「嫌だ。ずっと秩父にいてよ」


 そんな答えの出ない押し問答は、「そろそろ店を閉めるよ」と祖母が声をかけてきてくれるまで、続いたのだった。 


◇◆◇◆


「今日はこうちゃんも、ゆう君もお店を手伝ってくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「そんなことないよ。それより、こんなに大変なのにずっと手伝いにこなくてごめん、ばあちゃん」
「大丈夫だよ。こうちゃんだって忙しいんだから。こうやって秩父に帰ってきてくれるだけで、じいちゃんとばあちゃんは嬉しいんだから」
「そっか……」
 空は茜色に染まり、烏が巣に帰るのだろうか。群れをつくって飛んでいる。真っ赤に染まった入道雲もとても綺麗だ。遠くからはヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。
「蚊がくるから蚊取り線香を付けて、扇風機を回しておくかんね。夕飯はもう少し待ってて。今日は秩父の名物の冷やし汁にしようかな」
「わかった。ばあちゃん、ありがとう」
「いいんだよ。ばあちゃんは、こうちゃんがいてくれるだけで嬉しいんだから」
 祖母は蚊取り線香に火をつけてから、台所へと行ってしまう。風鈴が扇風機の風に揺れて、チリンチリンと涼やかな音をたてた。


秩父(ここ)は落ち着く……」
 縁側に寝転んで目を閉じると、扇風機の風が火照った体を冷やしてくれる。ヒグラシの鳴き声と、風鈴の音色が心地よかった。


「琥珀、スイカ持ってきたよ。一緒に食べよう」
「え? スイカ? わぁ、超美味しそうじゃん!」
「だろう? うちの畑で穫れたんだ」
 皿に並べられたスイカを持ち、悠介が縁側からひょっこり顔を出す。悠介の家の畑で獲れたというスイカは、真っ赤でとても綺麗な色をしている。切る前はきっとバスケットボールくらいの大きさがあったかもしれない。
「凄い、こんな立派なスイカが穫れるんだ!」
「そうだよ。夏の風物詩だ。食べてみてよ」
「うん。いただきます」
 俺は大きな口を開けてスイカを頬張る。シャリッという音がした後、甘い味が一気に口の中に広がっていく。
「え? スイカってこんなに甘かったの?」
「そうだよ? スーパーで売ってるスイカと全然違うだろう?」
「うん。めちゃくちゃ美味しい!」
 俺は目を輝かせながら、もう一口スイカにかじりついた。


 口に残った種をひとつひとつ口から出して皿に並べていると、隣で悠介がプップッと口から種を庭に飛ばしている。「は? 汚くね?」と文句を言ってやろうかとも思ったけれど、それを見ているとなんだか楽しそうに思えて、ウズウズしてきてしまう。
「よし、俺だって」
 悠介の真似をして、口からスイカの種のプッと吹き出すと、すぐ近くに落ちてしまいガッカリしてしまった。
「琥珀下手っくそだなぁ。こうやるんだよ」
 悠介がプッと種を吹き出すと、視線では追いきれないほど遠くへと飛んで行った。
「俺に勝とうなんて、まだまだ早いよ」
「なんだか悔しいなぁ」
「ふふっ。じゃあ、また一緒にスイカを食べよう。畑にはまだまだたくさんスイカがなってたから」
「うん。楽しみだなぁ」
 俺はシャリッともう一口スイカを頬張る。悠介と、こうやって何となく過ごす時間がたまらなく好きだ。何も飾ることのない、素の自分でいられるような気がするから。


「ふふっ。琥珀、頬っぺたにスイカの種がついてるよ」
「マジで?」
「本当に子供みたいだな」
 悠介がそう笑いながら、俺の顎をクイッと指先で持ち上げる。自然と上を向かされた俺は、至近距離で悠介と視線が絡み合った。
「あ……」
「ほら、とれた」
 俺は何も言えず、悠介の整った顔を見つめることしかできない。頬が熱くなって、悠介の真っ黒な瞳に吸い込まれそうになってしまった。


「あ、琥珀一番星だ」
「ほ、本当だ。超綺麗だね」
 ずっとこんな穏やかな時間が過ぎていけばいいのに……。俺は心の中でそっと祈ってしまう。それ程、悠介と過ごす時間は心地よかった。
「ガキ扱いばっかして、第一印象は、あまりよくなかったけどな」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない」
 照れくさくなった俺が顔を背けると、悠介の筋張った指が俺の頬にそっと触れた。その瞬間、俺の体がピクンと跳ね上がる。


「な、なんだよ、突然触るなよ。びっくりするだろう」
「ねぇ、琥珀。今日は一緒に寝ようか?」
「はぁ? なんだよ、急に。だから俺はガキじゃないって言ってんだろう? 最近ようやくガキ扱いしなくなったと思ったのに……」
 悠介の手を振り払おうとすると、逆に掴まれてしまう。その予期せぬ行動に、俺の鼓動がトクンと跳ねた。
「やっぱり一人じゃ寝られないんじゃない? 最近いつも欠伸してるし、目の下に隈だってあるよ」
「東京で色々あったから、ちょっと寝つきが悪いだけだよ。しかも、ここん()異常に広いし、遺影とか飾ってあるし……仏壇とかも何だか怖いじゃん? だから寝られないだけ」
「ふふっ。確かに。そういうの怖いよね」
 広い屋敷の中を見渡す俺を見て、悠介がクスクスと笑う。


「でもさ……」
 ふわりと笑った悠介が、そっと俺の髪を撫でてくれた。
「きっとそれだけじゃないでしょう?」
「だからさぁ……」
「いいじゃん。俺だって琥珀と寝たい。飯食ったら、また布団持ってくるね」
「はぁ、わかった……」
 悠介は普段は素直なのに、こういうときは強情だ。俺は渋々了承してしまう。それに、本当はその心遣いが少しだけ嬉しかった。でも素直じゃない俺は、口が裂けてもそんなことは言えないけれど……。


「楽しみだなぁ。色々話しようね」
「恋バナ、とか?」
「あ、恋バナだけはダメ。恥ずかしいから」
「なんで? 俺にも話せない話とかあるの?」
「琥珀だから話せないんだよ! いいからもうこの話は終わり!」
「プッ! なんだよ、それ」
 真っ赤な顔をしながら両手を目の前で振る悠介が可笑しくて、俺はつい吹き出してしまった。


◇◆◇◆


 悠介が自宅に戻って布団を持ってきたのは、それから大分たってからだった。
「なにかあったの?」
「いや、功丞と宗助が、琥珀と一緒に寝るんだって駄々を捏ねてさ」
「なんで? 連れてきてやればよかったじゃん?」
「駄目だよ。あんな怪獣が二匹もいたら琥珀、余計眠れなくなっちゃうよ。それに……」
「それに?」
 突然黙ってしまった悠介の顔を覗き込む。


「俺が琥珀と二人で寝たかったの! 悪い?」
「べ、別に悪くねぇけど……」
「なら構わないだろう?」
「あ、うん。なんかごめん」
「別に、もういい……」 
 悠介にしては珍しく、不貞腐れたような顔をしながら俺のすぐ近くに布団を敷く。「ちょっと近すぎねぇか?」と言おうと思ったけれど、俺はその言葉を何となく呑み込む。
「可愛いとこあるじゃん」
 いつもしっかりしていて、頼れる悠介が子どものように駄々を捏ねる姿が可愛く思えたから。


「あー、今日も疲れたぁ!」
 俺たちは二人して横になる。風鈴の音色と、鈴虫の鳴き声が静かな空間に響き渡っていた。
 どうかこの胸の高鳴りが、悠介に聞こえていませんように……。


「ねぇ、琥珀、今日は寝られそう?」
「どうかな……。わかんない」
「東京で、よっぽど嫌な思いをしたんだね。なんだか、いとおしいな……」
「いとおしい?」
「うん。秩父弁で『かわいそう』っていう意味」
「なんだよ、それ? 同情してるのか?」
「ううん。そうじゃないよ」
 悠介がゴロッと体の向きを変えたから、俺も悠介のほうに体を向けた。
「秩父弁の『いとおしい』は、ただ単に可哀そうっていう意味だけじゃなくて、その人のことが大好きで、いつも思っているから……。だからその人が悲しむことで、自分も身が引き裂かれるくらい悲しい、っていう意味が込められてる気がするんだ」
「そっか……」
「だから、俺は琥珀がいとおしいよ」
「馬鹿じゃん」
 俺が布団を頭から被ると、右手にそっと温かなものが触れる。それが悠介の手だとわかるまでに少しだけ時間がかかってしまった。俺の頬に少しずつ熱が籠っていく。心臓がドキドキして、こんなんじゃ余計眠れない。


 俺は、布団からそっと顔を出した。
「琥珀、今日も手を繋いで寝ようよ」
「だから、俺はガキじゃないって」
「あのね、これは秩父に昔から伝わるお(まじな)いなんだ。こうやって手を繋いで寝ると、よく眠れるんだよ」
「本当かよ? 嘘くせぇな」
「本当だって。だから、ね。このまま手を繋いで寝よう」
「……わかったよ」
 嬉しそうに微笑む悠介の後ろには、星空が広がっている。最近は狸も鹿も怖くなくなってきたから、網戸のまま寝る習慣がついていた。どうせ眠れないなら、こうやって星空を眺めながら過ごすのも悪くはない。


 その時――。


「あ、流れ星だ」
「え? 本当?」
 たくさん輝く星の一つがシュッと弧を描き、夜空を駆け下りていく光景に俺は思わず大声をあげてしまった。
「俺、流れ星なんて初めて見た」
「本当に? 琥珀ラッキーだったね。流れ星に願い事できた?」
「できるわけねぇよ。だって、本当に一瞬だったもん」
「そっか、また流れ星が見られるといいね」
「うん。その時は、ちゃんと願い事が言えるように練習しておく」
「え? 琥珀の願い事って何? 知りたい! 超気になるんだけど」
「うるさい! もう寝るぞ!」
「えぇ、ケチだなぁ」
「はいはい。おやすみ」
「うん、おやすみ。琥珀、また明日ね」


 そう言って瞳を閉じる悠介。手は相変わらず繋がれたままだ。こんなんじゃドキドキして、きっと眠ることができないだろう。
 でも、次にもし流れ星を見ることができたら――。俺の願い事は決まってるんだ。


 どうかこの手が、ずっと傍にありますように……。