萌美の悪行が露見し、騒然とする部屋の中、聡は岳に静かに命じた。
 「萌美殿を捕らえ、尋問せよ。義母も同様だ」
 岳は恭しく頭を下げ、萌美に剣を突きつけた。
 「萌美殿、悪しき心に囚われた貴殿の所業、見過ごすことはできません」
 岳の言葉に、萌美は絶望に顔を歪ませた。
 「違うわ!わたくしは、ただ聡様を愛しているだけよ!この女が、わたくしの幸せを全て奪ったのよ!」
 萌美は、最後の力を振り絞って、紗奈に襲いかかろうとする。しかし、その瞬間、紗奈の体から、再び黄金の光が放たれた。
 その光は、萌美の心を包み込み、彼女の魂の奥底に語りかける。
 「萌美、わたくしは、あなたの心を理解しようと努めました。しかし、あなたは、その心の奥底に、自らの欲しか見ようとしなかった。憎しみは、あなたを幸せにはしません」
 紗奈の声は、優しく、しかし、力強かった。その言葉は、萌美の心の奥底に、深く突き刺さる。
 萌美は、紗奈の言葉に、一瞬、心が揺らいだ。彼女の「心の眼」には、紗奈の魂が放つ、清らかで、美しい光が、眩しいほどに輝いて見えた。
 (……これが、真の巫女の力……?わたくしには、決して手に入らないもの……)
 萌美は、自らの力の無さを痛感し、その場に膝から崩れ落ちた。
 「う……あ……!」
 萌美の魂の濁りは、紗奈の放つ光に浄化され、彼女の心に、かすかな後悔の念が生まれた。
 しかし、その心は、長年の嫉妬と憎悪によって深く蝕まれており、完全に浄化されることはなかった。
 紗奈は、萌美の魂の光が、まだ濁っているのを感じ取り、静かに首を振った。
 「萌美、わたくしは、あなたを許します。しかし、あなたが犯した罪は、この国が裁かなければなりません」
 紗奈は、そう言って、萌美に背を向けた。
 萌美は、その場に呆然と立ち尽くし、ただ、紗奈の背中が放つ、眩い光を見つめることしかできなかった。
 それは、彼女には決して届かない、光だった。
 翌日、萌美と義母は、全ての悪事が白日の下に晒され、宮廷から追放されることになった。
 「おのれ……!いつか、必ず……!」
 萌美は、悔しさに満ちた表情で、そう呟いたが、その声は、もはや誰にも届かなかった。
 全てが解決し、安堵の表情を浮かべる紗奈に、聡は優しく語りかけた。
 「紗奈、お前の巫女としての力は、伝説通り、子を宿すことで覚醒したのだな。そして、その力は、悪意を打ち砕き、真実を明らかにする力だった」
 紗奈は、お腹の子を優しく撫でながら、微笑んだ。
 「はい、聡様。この子が、わたくしに力を与えてくれました。わたくしは、この子を守るため、そして、聡様とこの国を守るため、この力を、正しく使っていきたいです」
 聡は、そんな紗奈を愛おしそうに見つめ、優しく抱きしめた。
 「ありがとう、紗奈。お前は、この国の、そして私の、希望の光だ」
 聡の言葉に、紗奈は、幸せに満ちた涙を流した。
 こうして、紗奈は、「黒衣の姫」から、「月光の姫」へと、その姿を変え、聡と共に、新たな未来を歩み始めるのだった。