萌美の唱える禁忌の呪術によって、紗奈と聡は激しい苦痛に襲われていた。
 紗奈の腹から放たれていた、温かく清らかな生命の光が、萌美の放つ黒い呪いの光にじわじわと侵食されていく。
 「やめろ、萌美……!」
 朦朧とする意識の中で、聡は必死に声を絞り出すが、その声はかき消されてしまう。
 紗奈は、お腹の子の生命の光が弱っていくのを感じ、恐怖に震えた。
 (……このままでは、この子が、消えてしまう!)
 その時、紗奈の「心の眼」が、呪いの光の源をはっきりと捉えた。それは、萌美が手にしている、古びた呪術書だった。
 (あの書物から、呪いの力が……!)
 紗奈は、お腹の子を守るため、そして聡を救うため、最後の力を振り絞ることを決意した。
 彼女は、苦痛に耐えながら、静かに目を閉じた。
 その瞬間、紗奈の体から、再び黄金の光が放たれた。
 それは、儀式の時よりも、はるかに強く、そして温かい光だった。
 「……これは、まさか……」
 萌美は、驚きに目を見開いた。彼女の唱える呪文が、紗奈の光によって、かき消されていく。
 紗奈は、お腹の子の生命の光と、自身の巫女の力を一つに合わせ、萌美の呪いに立ち向かった。
 「萌美……!あなたは、もうこれ以上、誰も傷つけてはならない!」
 紗奈の声が、萌美の心に響く。
 その声に、萌美は一瞬、戸惑いの表情を見せた。
 (なぜ……なぜ、この女の声は、わたくしの心に届くの……?)
 萌美の心に、わずかな隙が生まれた。
 その隙を見逃さず、紗奈は、お腹の子の生命の光を、萌美の呪いに向かって放った。
 「うわああああっ!」
 萌美は、紗奈の光に弾き飛ばされ、呪術書を床に落としてしまう。
 呪いの光が消え、紗奈と聡は、ようやく苦痛から解放された。
 朦朧としていた聡の意識も、少しずつ戻ってくる。
 「紗奈……無事か……?」
 聡がそう言うと、紗奈は優しく微笑んだ。
 「はい、聡様。この子が、わたくしに力を与えてくれました」
 紗奈は、お腹の子を優しく撫でた。
 その時、部屋の外から、激しい足音が聞こえてきた。
 岳だ。
 岳は、萌美と義母の不審な動きを察知し、急いで駆けつけてきたのだ。
 部屋に入った岳は、床に倒れている聡と、安堵の表情を浮かべる紗奈、そして、呪術書を手に茫然と立ち尽くす萌美を見て、全てを悟った。
 「萌美殿!一体、何を企んでいたのだ!」
 岳は、怒りに満ちた声で萌美に詰め寄る。
 萌美は、岳の声に我に返り、震えながら呪術書を隠そうとするが、もう遅かった。
 岳は、呪術書を手に取り、その中身を読み、怒りをあらわにした。
 「これは、禁忌の呪術書ではないか……!紗奈様とお子、そして聡様に呪いをかけようとしたのか!」
 岳の言葉に、萌美は絶望の表情を浮かべた。
 彼女は、もう、どうすることもできなかった。
 こうして、萌美の悪行は、再び白日の下に晒されることとなった。
 そして、紗奈は、お腹の子の力によって、巫女としての力をさらに覚醒させ、萌美との決定的な力の差を見せつけるのだった。