儀式によって、萌美の嘘が白日の下に晒された。
 宮廷中の人々は、萌美への信頼を失い、彼女を非難する声を上げ始めた。
 「萌美様は、皇帝様を騙していたのか……」
 「巫女の力を悪用するなんて、とんでもない!」
 萌美は、その非難の言葉を浴びながら、顔面蒼白でその場に立ち尽くしていた。
 「う、嘘よ!この儀式は、あの女がインチキをしたのよ!聡様、信じないでください!」
 萌美は、最後の悪あがきとばかりに、必死に叫んだ。
 しかし、聡は冷たい目で萌美を見つめ、静かに告げた。
 「萌美殿、貴殿の嘘は、人々の『心の眼』が証明している。これ以上、見苦しい振る舞いはやめなさい」
 聡の言葉に、萌美は膝から崩れ落ちた。彼女は、全ての地位と名誉を失ったことを悟った。
 その日の夜、萌美は自室で、義母と共に今後の身の振り方を相談していた。
 「萌美、もうこの国にはいられないわ。このままでは、私たちは追放されてしまう」
 「いやよ!わたくしは、聡様の妃になるはずだったのよ!なぜ、あの女に全てを奪われなければならないの!?」
 萌美は、床に座り込み、悔しさで涙を流す。しかし、その涙は、悲しみではなく、憎悪からくるものだった。
 「こうなったら、最後の手段だわ……!」
 萌美は、義母に与えられた、古びた書物を手に取った。それは、代々巫女の一族に伝わる、禁忌の呪術書だった。
 「これは……!お萌美、まさか、これを……」
 「ええ、お母様。この書物には、相手の命を奪う呪いがかかっていると書かれています。この呪いで、紗奈とお腹の子を、この世から消してやるわ!」
 萌美の瞳は、狂気に満ちていた。義母は、その狂気に恐怖を覚えたが、もはや後戻りはできないことを悟り、萌美の計画に加担することにした。
 同じ頃、紗奈は、無事に儀式を終え、安堵の表情で聡と語り合っていた。
 「聡様、これで、萌美の嘘は暴かれました。もう、わたくしやお腹の子を心配する必要はございません」
 しかし、聡の顔は、どこか曇っていた。
 「紗奈、油断は禁物だ。萌美殿の悪意は、まだ消えていない。彼女が何を企んでいるか、私には分からない」
 聡は、紗奈の「心の眼」が、萌美の魂の濁りを見抜いたように、彼自身の「心の眼」でも、萌美の魂から発せられる、黒く、邪悪な光を感じ取っていたのだ。
 「岳、萌美殿と義母の動きを、厳重に監視しろ」
 聡は、岳に命じ、紗奈の身の安全を、再び託した。
 しかし、その夜、事件は起きた。
 萌美は、禁忌の呪術書に記された呪文を唱え、紗奈とお腹の子の命を奪おうとした。
 呪文を唱え始めた瞬間、紗奈の部屋に、激しい風が吹き荒れた。
 「聡様……!」
 紗奈は、急に胸の痛みに襲われ、苦しそうにうずくまった。
 聡もまた、激しい頭痛と吐き気に襲われ、その場に倒れこんでしまう。
 「紗奈……!いったい何が……」
 聡の視界が歪み、意識が遠のいていく。
 紗奈の「心の眼」には、萌美の魂から放たれる、黒い呪いの光が、自分とお腹の子、そして聡を包み込んでいるのがはっきりと見えた。
 「萌美……!あなた、一体何を……!」
 紗奈は、最後の力を振り絞って、萌美の魂に向かって叫んだ。
 しかし、萌美の狂気は止まらない。彼女は、呪いの言葉を唱え続け、紗奈とお腹の子、そして聡の命を奪おうとする。
 紗奈は、お腹の子の生命の光が、呪いの光に飲み込まれていくのを感じ、恐怖に震える。
 (このままでは、お腹の子が……!)
 紗奈は、朦朧とする意識の中で、お腹の子を守るため、自らの巫女の力を、再び覚醒させようと決意するのだった。