聡と紗奈は、萌美の偽装を暴くための策を練っていた。
 「萌美殿の嘘を暴くには、世間が納得する確固たる証拠が必要だ。しかし、医師に診せることを拒む以上、別の方法を考えねば」
 聡が悩むように言うと、紗奈は静かに口を開いた。
 「聡様、わたくしに考えがございます」
 紗奈は、お腹の子を優しく撫でながら、毅然とした態度で告げた。
 「この国では、皇族と深い縁を持つ巫女が、国の安寧を祈る儀式を行うと聞いております。わたくしがその儀式で、真の巫女の力をお見せします」
 聡は、紗奈の言葉に驚きを隠せない。
 「しかし、それはまだ覚醒しきっていないお前の体に、大きな負担がかかるのではないか?」
 「大丈夫でございます。この子が、わたくしに力を与えてくれます。そして、わたくしの『心の眼』の力を使えば、萌美の腹の中に、生命の光がないことを、誰もが知ることになるでしょう」
 紗奈の言葉には、迷いがなかった。彼女は、お腹の子を守るため、そして聡の潔白を証明するため、自らの力を解放することを決意したのだ。
 数日後、宮廷で、巫女の儀式が執り行われることになった。
 「今回の儀式は、聡様の病が癒えること、そして国に新しい世継ぎが誕生することを祈願するためである」
 高官の声が響き渡る中、萌美は自信に満ちた表情で、儀式の場へと進み出た。
 (フフン……紗奈ごときが、わたくしと同じ舞台に立てるわけがないわ。巫女の作法も知らない、薄汚い女の力を、皆に知らしめてやるわ!)
 萌美は、巫女の家系に伝わる作法に則り、祈りの言葉を紡ぎ始める。その声は美しく、多くの人々が彼女こそが真の巫女だと信じていた。
 しかし、萌美の魂は、相変わらず濁った光を放っていた。そして、彼女の腹の中は、虚無の闇に包まれていた。
 萌美の祈りが終わると、次に紗奈が祭壇の前に立った。
 豪華な装束を身につけた萌美と違い、紗奈は質素な白い着物姿だった。しかし、その姿は、お腹の子の生命の光によって、まるで月のように輝いて見えた。
 「……わたくしは、ただ、この国と、お腹の子の未来のために、祈りを捧げます」
 紗奈はそう言うと、静かに目を閉じた。
 すると、紗奈の体から、黄金の光が放たれ始めた。
 その光は、祭壇を、そして儀式の場に集まった全ての人々を包み込んでいく。
 紗奈の「心の眼」は、お腹の子の力によって、完全に覚醒していた。彼女は、集まった人々の魂の光を読み取り、その魂に、直接語りかけるように祈りを捧げた。
 「皆様、どうぞ、目をお開けください……」
 紗奈の静かな声に、人々はゆっくりと目を開ける。
 すると、彼らの目に映ったのは、紗奈の体から放たれる、温かく、生命力に満ちた光だった。
 そして同時に、彼らの「心の眼」には、萌美の腹の中から放たれる、冷たく、不自然な光が、虚無の闇に包まれている光景が映し出されていた。
 「う、嘘だわ……!嘘よ!」
 萌美は、自らの嘘が白日の下に晒されたことに気づき、叫び声を上げた。
 儀式の場は、騒然となった。人々は、自分たちの「心の眼」で見た真実を信じざるを得なかった。
 「……わたくし、萌美の腹の中に、生命の光が見えないわ!」
 「あれは、虚無の闇だ……!」
 人々は、口々に萌美の偽りを囁き始めた。
 聡は、静かに立ち上がり、萌美に向かって告げた。
 「萌美殿、残念だが、貴殿の嘘は、巫女の力によって暴かれた。貴殿は、皇族の子を身籠ってはいない」
 聡の言葉に、萌美は顔面蒼白になり、その場に崩れ落ちた。
 紗奈は、力を使ったことで、少し疲れたようだったが、その表情には、強い安堵と、使命を果たした誇りが宿っていた。
 こうして、萌美の偽装妊娠は、巫女の力によって暴かれ、彼女の立場は、窮地に陥るのだった。