岳によって、流産の薬を仕込む計画を阻止された萌美は、自室で荒れ狂っていた。
 「あの女……!なぜ、わたくしの邪魔ばかりするの!?」
 萌美は、悔しさと怒りで、美しい髪を乱していた。
 「落ち着きなさい、萌美。まだ手はあるわ」
 義母が、萌美の肩に手を置き、囁くように言った。
 「流産させられなくても、あの子がいなければいい。私こそが、聡様の子を宿すのだと、信じ込ませればいいのよ」
 萌美は、その言葉に、顔を上げた。
 「偽装妊娠、ですか……?」
 「そうよ。この国では、皇族の子を身籠った巫女は、特別な力を持つとされる。あの女の懐妊を信じさせなければ、その力は覚醒しないわ。そして、私たちには、その偽装を成功させる方法がある」
 義母はそう言って、萌美に、ある不思議な薬を与えた。
 「これは、一時的に体の内側から、生命の光を放つ薬だ。これを使えば、誰の目にも、お前が子を宿したように見えるだろう」
 萌美は、その薬を手に取り、邪悪な笑みを浮かべた。
 「お母様……!わたくし、必ず聡様の妃になってみせますわ!」
 翌日、萌美は聡の元へ向かい、震える声で告げた。
 「聡様……わたくし、聡様のお子を宿しました」
 聡の顔に、戸惑いの表情が浮かんだ。
 「萌美殿……それは、本当か?」
 「はい……!この身に宿る、生命の光を感じておりますわ」
 萌美はそう言って、自分の腹に手を当て、義母から与えられた薬の力で、偽りの光を放った。
 聡の「心の眼」には、萌美の腹の中から、確かにかすかな光が見えた。しかし、それは、紗奈の腹から放たれる光とは、全く違うものだった。
 紗奈の光は、温かく、透き通るような、生命そのものの光。
 萌美の光は、どこか冷たく、作り物のような、不自然な光だった。
 聡は、萌美の言葉を安易に信じることはできなかった。彼は慎重に、この事の真偽を確かめようとする。
 「萌美殿、まずは、医師に診てもらうのが先決だ。その上で、正式に発表しよう」
 萌美は、聡の言葉に焦った。医師に診てもらえば、すぐに偽装だとバレてしまう。
 「い、いいえ!聡様!わたくしは、巫女の力で、この子が本物だと分かりますわ!それに、お姉様の子が本当に聡様の子だという証拠はどこにもありませんわ!」
 萌美は、紗奈を貶めるために、必死で言葉を紡いだ。
 萌美の偽りの言葉は、宮廷中に広まった。
 「萌美様も、皇帝様の子を身籠られたらしいわよ」
 「一体どちらが、本当の世継ぎを産むのかしら」
 そんな噂が飛び交う中、紗奈は静かに、萌美の言葉に耳を傾けていた。
 紗奈の「心の眼」は、萌美の腹から放たれる、冷たい光をはっきりと捉えていた。そして、その光の奥にある、虚無の闇も。
 (……萌美の懐妊は、嘘だ。お腹の子を守るためにも、この嘘を暴かなければならない)
 紗奈は、自分の中の力が、より一層強くなっていくのを感じていた。お腹の子の生命の光が、彼女の巫女としての力を、急速に覚醒させていたのだ。
 その夜、聡は紗奈の部屋を訪れた。
 「紗奈、萌美殿の言葉に、心を痛めているのではないか?」
 聡の優しい言葉に、紗奈は静かに首を振った。
 「いいえ、聡様。わたくしは、萌美の言葉には動じません。なぜなら、わたくしの『心の眼』には、萌美の腹の中に、生命の光がないことがはっきりと見えているからです」
 紗奈の言葉に、聡は驚き、目を見開いた。
 「紗奈……お前の力は、そこまで覚醒したのか?」
 「はい。この子が、わたくしに力を与えてくれています。聡様、萌美の嘘を暴くため、わたくしに、力を貸してはいただけませんか?」
 紗奈は、まっすぐに聡を見つめ、告げた。
 聡は、その瞳の奥に、強い意志の光を見た。
 「分かった。お前の言う通り、萌美殿の嘘を暴く方法を考えよう。お前とお腹の子のためにも、私はもう、臆病な皇帝ではいられない」
 聡はそう言って、紗奈の手を力強く握りしめた。
 そして二人は、萌美の偽装を暴くための、秘策を練り始めるのだった。