ポラフィルムを振っていると、胸ポケットのスマホが震えた。
着信表示は高森夕紀、同学年・放送部長。
昼休みに「校内ラジオの新コーナーで“音のポストカード”を集めたい」と差し出した企画書の彼だ。
開くとボイスメモが一通。再生をタップする。
〈Voice Memo 0〉
時間:00:12
「朝霧さん、今、どんな音を聞いていますか?
これはテストでもあり願いでもある“音じゃない声”。
もし明日、世界が静かになったとしても、
僕らの残響メーターを合わせておけば、互いの声が迷子にならない。
今日を起点に百分率を刻もう。
ゼロになるその瞬間まで、
交換日記みたいに世界を録り合おう――」
透き通る声が鼓膜を撫で、耳鳴りの砂を一瞬だけ静める。
録音環境のホワイトノイズが尾を引き、まるで雪の中を歩く足音のように優しい。
胸の奥でなにか小さな灯が点る。


