0 dB ― white‑out
――残響メーター:100 %(推定可聴残日数=100)












世界が無音で満ちるとき、色はすべて白に溶ける――。

 六月の終わり、札幌。外は雨。午前の外来が一段落した総合病院三階、聴覚診療科前の廊下。壁はアイボリー、床はワックスの乾いた匂い、遠いナースステーションからプリンターの紙送り音が周期的に届く。朝霧柚花は診察室のドアに背を預け、深呼吸を一つした。呼気が胸の奥で僅かに波打ち、耳鳴りの砂がザザッと揺れる。今日は聴力検査の結果説明。ただそれだけのはずだった――“進行性”という言葉が口にされるまでは。