残穢だ。
日のあるうちから視界の隅でちらちらと見かけてはいたけれど、夜になるとかなり量が増えている。日が沈めば陰の時間、悪いものが威力を増すのは理なのだけれどそれにしても多い。
この地域の氏神神社は"こちら側"の神職が管轄しているのもあって、土地に悪いものが吹き溜まることは滅多にないはずだ。
前に帰省した時だって、こんなに溢れかえっていなかったのに。
「お兄ちゃんが恵理ちゃんを家まで送れって言ったのも納得……」
自他ともに認める過保護な兄が、『真っ直ぐ帰ってこい』ではなく『恵理ちゃんを送ってから帰ってこい』と言ったのは、きっとこれが理由なんだう。
物陰からこちらの様子を伺う不気味な視線に眉根を寄せて、歩くスピードを速めた。
一体何が起きているのだろう。至る所で胸がざわつくことばかり起きている。力のない恵理ちゃんが嫌な気配を感じ取るくらいなのだから、何かが起きているのは間違いないのだろう。
意気消沈するクラスメイト達、慌ただしい"あちら側"、行方不明者の発生。
降った雨が土に染み込むように、何か悪いものが少しずつ広がって入り込んでいるような感覚だ。
雪が降りそうな曇りがかったパッとしない空に吐いた息が白く染る。
その時、若い女性の甲高い悲鳴が響き渡り、勢いよく振り返った。



