「分かってるとは思うが、双子たちも何もするなよ」
「心外だな。今日は後輩育成に全力を注ぐつもりだ」
「そうですよ先生。今日は」
声を揃えた飛鳥馬兄妹に、何も言わずに天を仰いだ先生は深呼吸にしては長く息を吸って吐くと、聖仁さんの肩を力強く掴む。「お前だけが頼りだ」という無言の眼圧に苦笑いを浮かべた聖仁さんは「善処します」と肩を竦めた。
「さて、じゃあ早速だけど来光、失せ物探しの祝詞を奏上してみようか」
「僕らが参加していいんですか? だって僕らが瑞祥さんのこと見つけちゃったら、先輩たちの成績に反映されないですよね?」
いいからやってみろ、と鶴吉さんに肩を叩かれた来光くんは、痛そうに顔を顰めて眼鏡を押し上げるとひとつ咳払いをした。
そして太陽の位置を確認し、体を西の方角へ向けるとすっと背筋を伸ばす。胸の前で二度、切れのいい柏手を打ち鳴らし瞼を閉じた。
「清水の 音羽の滝は 尽きるとも 失せたる夏目瑞祥の 出でぬことなし」
これは呪歌と呼ばれる呪の一種だ。和歌の形をしているけれど、正しく意味を理解し発声すれば祝詞奏上と同等の効果を発揮する。
来光くんが奏上したのは失くしたものを見つけるための呪歌で、奏上すれば失せ物の方角に近ければ大きく、遠ければ小さく滝が落ちる飛沫の音が聞こえる。
私も一度だけ校章を失くし、この呪歌を奏上したことがある。ちなみに校章は真後ろの引き出しの奥に転がっていたので、鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が響き渡り一瞬意識が飛びかけたのは余談だ。



