次の瞬間、後ろ襟を何かに掴まれて両足が地面から離れた。親猫に運ばれる子猫のようにプランと宙にぶら下がる。
何とか首を捻って確認すると私の襟首を掴んでいたのはタロちゃんだ。生気のない真っ黒な瞳がじっと私を見つめており何だかちょっと不気味だった。
「今の数秒で全員的に背後を取られた実践なら間違いなくもう死んでいるぞ」
句読点が抜けた独特な早口が入口から聞こえてみんなが振り返る。
「嬉々先生!」
腕を組み、不揃いの前髪の間から私たちを睨むのは呪法の教科担任である玉富嬉々先生だ。
「えっ、今日って嬉々先生なんですか」
「なんだ松山来光不満があるならはっきり言え」
「ないですないです、すみませんッ!」
顔を引きつらせて部分と両手を振る来光くんに皆はぷぷぷとこっそり笑う。
本庁や神修、まねきの社に勤務しているかむくらの神職さまたちは、手が空いていればこの時間に稽古をつけてくれることもある。
どうやら今日は嬉々先生が見てくれるらしい。
直ぐに真面目モードに切り替えたみんなは各々の持ち場について自主練を再開する。
冬休みの間の特別稽古でも嬉々先生は私たちに呪いに関するありとあらゆる知識を教えてくれた。相変わらず嬉々先生は何を考えているのか分からず怖いけれど、特別稽古を経て皆かなり嬉々先生に対する苦手意識が薄れたようで、今では気軽に質問するようになっている。
それは私も同じなのだけれど、今は別の少し困った問題を抱えている。
それは何かと言うと……。



