あの学校の中だけじゃ、極わずかなことしか教えてもらえない。それを補うには実践を知っている人に教えを乞わなければならない。

自分や友達を────大切な人たちを守るために。


「あんたら汚いし、お風呂一番最後に入ってや」


米びつをもって現れた千江さんが屍のような私たちを見て顔をしかめる。ひでぇよ、と訴える泰紀くんの声も覇気がない。

たしかに何度もねじ伏せられて砂埃をかぶり森の中を走らされ生傷だらけなので綺麗な状態とは言い難いけれど。


「でも風呂入る元気もねぇや、メシ食ったらすぐ寝たい」

「絶対やめて、そんまま寝たら布団汚れるやろ。泡風呂の粉いれたるからサクッと入ってき」


泡風呂!?と皆の目が輝く。

そういえば昔、お兄ちゃんも私「入りたくない」と駄々を捏ねた時は泡風呂の粉をとかして用意してくれたっけ。

いくつになっても泡風呂は人をワクワクさせるらしい。


「千江さんサイダー持って入っていい……?」

「はいはい。絶対こぼさんといてや」

「千江さん僕らアイスあったら明日も頑張れる気がする」

「ああもう、分かったからサッサと食べ!」


さっきの様子と打って変わってバクバク食べる皆に小さく吹き出す。


「単純すぎるだろ、こいつら」


隣に座っていた恵衣くんが青い顔をして眉根を寄せる。

恵衣くんに泡風呂は効かなかったらしい。