「彼は審神者を母のように慕っていたが故に、審神者の在り方について疑問を抱いていた。そんな時先の戦が始まり恩師や親友、母のように慕う女性を亡くした」


親友……? 薫先生や嬉々先生の他にも、仲のいい人がいたの?

ちらりと薫先生に視線を向けると、テーブルに頬杖をついてどこか昔を懐かしむような表情で小さく笑った。


「信じていたものが揺らいでしまったんだろう。だからその象徴である本庁を壊滅させようとしたのだと、ワシは考えている」


信じているものが揺らぐ────玉じいのその言葉を心の中で繰り返し、大切な人たちの顔を思い浮かべた。

もしも皆に何かあったら、もしも誰かに裏切られたら、私は私でいられるのだろうか。

神々廻芽は悪人で、最低な人間なのだと思っていた。けれどそうなる前の彼は沢山の友人に囲まれ慕われ、約束された未来があるごく普通の一人の少年だったんだ。

より一層分からなくなった。彼がなぜ私を殺したいと思っているのか。

神々廻芽は今何を考えて、何を思っているんだろう。


「────それで本題に戻りますが、現状芽の思惑がハッキリしない以上我々は対処の仕様がありません。だから"巫寿たち"にはこの冬の間で、自分で自分を守れるだけの力を身に付けてもらう」


予想外の言葉に「えっ?」と顔を上げた。