「莫大な言祝ぎを持つ彼もまた力を持て余していたよで、特例としてかむくらの社への自由な出入りを許し、力の性質が似ていた当時の審神者である奉日本志ようから力の扱い方を学ばせていたんだ」
玉じいはテーブルの上で組んだ指に視線を落とす。
かむくらの社はその重要性から一部の本庁役員しか場所は明かされていない。宮司になる神職は一生に一度だけ参拝を許されているが、それですら役員に目隠しをされて連れて行かれるのだと聞いたことがある。
そんな場所へ自由に出入りが許されるのだから、彼がどんな人間だったのかも自ずと見えてくる。
「大切に育てていた、優秀な神職になるように。大切にしすぎたせいで、我々は彼から沢山のものを奪ってしまった」
「学生動員ですか」
目を細めた薫先生が静かに尋ねると、玉じいは重々しく頷いた。
「空亡戦の集結間際は次々と死傷者が出て酷い人員不足だった。だから本庁は後方支援の人員に学生を動員した。神々廻芽以外の学生を、だ」
「神々廻芽以外を?」
話を聞く限り神々廻芽は学生時代から優秀な神職だったようだし、誰よりも戦力になったはずだ。
なのにどうして彼は選ばれなかったんだろう?
「恥ずかしい話だが、当時、本庁の連中は神職が出払って手薄な庁舎が奇襲されることを恐れていた。だから保身のために力のある芽を傍に置いた。芽から自分も戦線へ出すよう嘆願があったが、当時の役員は有無を言わせず棄却したと聞いている」
棄却……。
力もあり実力もある。きっと神々廻芽は今の私たちと同じように"誰かを守るため"に研鑽してきたはずだ。
家族や友達が送り出される中、自分だけが安全な場所で何をすることも許されない状況の中、彼がどんな心境だったのか想像できた。



