「おやおや? 珍しく景福ちゃんが穏やかな顔をしてますねぇ」
のんびりとした口調でそう言いながら私たちの前の席に座ったのは、神修で私たちに雅楽や声学を教える浮所奏楽先生だ。
くるくる天然パーマと優しげな面持ち、何よりもこのおっとりした喋り方が「ゆるキャラっぽくて可愛い」と神修の女子生徒たちからそこそこ人気がある。
「奏楽先生も参加されていたんですね」
「はい。僕の大切な人が参加してますので」
奏楽先生は朗らかに笑いながらお猪口を煽る。
奏楽先生の大切な人……親友でも参加しているんだろうか?
「婚約者が参加してますもんね」
「ええ。可愛い婚約者を一人、危険なところに送り出せませんから」
「式はいつ挙げるんですか?」
「今のごたごたが落ち着いてからですかねぇ」
そうかぁ、結婚式か。ステキだなぁ。
あまりにもサラッと流れた会話に聞き流しそうになり、数秒遅れて「婚約者いたんですか!?」とまた素っ頓狂な声を上げる。
ふふ、と微笑んだ奏楽先生は唇に人差し指を当てて片目を瞑る。
「内緒ですよ?」
そう言ってチラッと目線を向けた先にいたのは、楽しげに語らう薫先生────の隣に座って黙々と手酌する嬉々先生だ。
あんぐりと口を開けて嬉々先生と奏楽先生の顔を見比べる。



