「やっぱり私には聞こえないよ」そう言おうと目を開いて、一瞬息が詰まった。文字通り目と鼻の先にある恵衣くんの顔に心臓が飛び跳ねる。


恵衣くん、まつげ長い……。


いつも不機嫌そうな表情にばっかり気を取られがちだったけれど、こうしてちゃんと向かい合って見ると恵衣くんって相当整った顔立ちをしている。

見慣れた顔のはずなのにじっと見つめていると何故かよく分からないけれど急に恥ずかしくなってきて、心臓がドクンドクンとうるさい。

頬にかかる息がくすぐったい。


「おい、今……」


閉じていた瞼がゆっくりと開いて視線が絡んだ。

恵衣くんの目が徐々に見開かれる。その次の瞬間。


ゴンッバタンッ────飛び退いた恵衣くんがまず壁に頭を打ち付け、その痛みに悶絶してひっくり返った。


「だ、大丈夫!?」

「お、お、お前!」


顔を真っ赤にした恵衣くんが顔を真っ赤にして私を睨む。と、その時。スパンッと襖が開いて廊下の光が差し込んだ。


「お前たち一体何してるんだ……」

「あはは、恵衣もすっかり悪ガキになっちゃって」


眩しさに目を細めて振り返ると、呆れた顔の禄輪さんとお腹を抱えて笑う薫先生、そして神職さまたちがずらりと並んでこちらを見ている。

恵衣くんと顔を見合わせる。


「いいから早く出てきなさいッ!」


鳴り響いた落雷に肩を竦めた。