床が軋まないように忍び足で廊下を通り過ぎ、次の間の前で足を止める。そっと襖を引くと、狭く薄暗い部屋の奥で壁にピッタリと耳をつけた恵衣くんがいた。

早く入れ、と唇だけを動かして私に伝える。

こくこくと頷き静かに閉めると恵衣くんの隣に腰を下ろした。


「聞こえる?」

「ギリ。多分軽い防音の結界張ってんだろうな」


眉根を寄せた恵衣くん。

私も壁に耳をつけて目を閉じる。遠くでもごもごと何かを話しているのは聞こえるけれど、話の内容はハッキリとは聞こえない。


「クソ。どんだけ警戒してんだよ」

「それだけ重要なことが話し合われてるってことだよね」


それにしても、と険しい顔で耳を澄ませる恵衣くんを見た。

一年前の恵衣くんなら絶対にこんなことを提案しなかっただろう。ルールや規則は絶対で、それから逸脱する行為には自分が関係なかろうと目くじらを立てていた。

そんな恵衣くんが、クラスメイトたちの悪い影響を受けてすっかりこちら側に染まってしまった。

指摘すれば烈火のごとく怒るだろうから言わないけれど。


「お前のこと話してるっぽいぞ」

「え?」

「巫寿って聞こえた」


慌てて再び壁に耳を寄せる。

ぽつりぽつりと単語は拾えるけれどやっぱり上手く聞き取れなかった。