「あらっ、お米切らしてもうたわ」


米びつを覗き込んだ千江さんは頬を押えて息を吐く。すると恵衣くんが参考書を閉じて立ち上がった。


「倉庫に買い置きあったんで、俺とってきます」

「ほんまに? ほな、お願いするわ」


こくりと頷いた恵衣くんはテーブルの上のスマホをポッケに入れて立ち上がる。

玉のれんの前に立ちちらりと私に視線をやると、スタスタ歩いていってしまった。


息を吐いてテーブルに顎を載せる。

することもないし、私も宿題しようかな。でもそんな気分じゃないしなぁ。

何となくスマホを立ち上げてSNSでも開こうかと画面に触れたその時、トークアプリにメッセージが届いた通知が表示される。

叩いて開くと、送り主は恵衣くんだった。


『気になるなら来れば。広間の隣の部屋』


そこでハッと気付く。

怪訝な顔で振り向いた千江さんから慌ててスマホを隠しブンブンと首を振った。


「せ、千江さん私御手洗行ってきます!」

「別に宣言せんでもええがな。はよ行ってき」


呆れ顔の千江さんに「へへ」と曖昧に笑う。そして早足で台所から抜け出した。