声には出さないものの、目で「お前マジかよ」と訴えかけてくる恵衣くんが末席に座る私の隣に腰を下ろした。
視線が痛い。
「そんな目で見ないで……」
「だってお前、前本部長と前審神者だぞ。何友達みたいに呼んでんだよ。立場を弁えろ立場を」
あの時、賓客の二人を出迎え外で玄関扉を抑えていた恵衣くんが二人の影から信じられないものを見たという表情で私を凝視していた。絶対に後から何か言われると思っていたけれど案の定小言を頂戴することになり苦笑いをうかべる。
だって誉さんはそれでいいって言ったし、玉じいはこの世界のことを知る前からの知り合いだ。祖父母と縁が薄かった私にとっては祖父代わりのような人なので気楽な呼び方になるのも許して欲しい。
はぁ、と息を吐いた恵衣くんは「始まるぞ」と顎で前を指す。
広間に集まったのは約三十名の神職に、前本部長と前審神者の二名だ。
上座の二人に深々と頭を下げたあと、禄輪さんが振り返って私たちを見回す。
「突然の招集にも関わらず、集まってくれた皆さまに感謝申し上げます。集まって頂いた理由は言うまでもなく────」
「おい禄輪、今更畏まっても遅せぇぞ。あの頃散々俺たちに失礼な態度を取ってただろうが!」
神職さまの誰かがそう声を上げたことで、静粛な空気感がどっと緩んだ。「そうだそうだ!」と続けて同調する声が上がり、広間は笑い声に包まれる。



