言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


麻さんは「ひとりじゃ危ないから」と言って神修の前まで送り届けてくれた。酷く心配そうな顔をして「また遊びに行こうね。連絡してね」と言って手を振ってくれた。

ありがとうございます、そう小さく頭を下げてわかれる。きっともう麻さんと会うことはないんだろう。

鳥居をくぐって階段を上る。一番上まで登りきったところで「こら」と脳天に手刀が落ちてきた。ゆっくりと顔を上げる。ちょっと困ったように笑った薫先生が私を見下ろしていた。


「門限過ぎてるよ巫寿。どこ行ってたの。すごく心配したんだよ。あと5分遅ければみんなで捜索しに行くところだった」


真剣な声色。それほど私のことを心配してくれていたということだ。


「薫先生……」

「ん? どうした?」


泣きたくなるのを堪えて笑った。今少しでも感情を零せば、決心が揺らぎそうな気がしたからだ。


「ずっと出せてなかった宿題があるんです」

「え?」

「私が神修へきた初日、寮まで送ってくれた薫先生は私に"どうして皆がお互いを名前で呼ぶのか考えてくるように"って言いました」


自分で宿題を出したくせに、薫先生はすっかり忘れていたらしい。そういえばそんなこと言ったな、と少し驚いた顔をした。


「名前で呼ぶのは名前が短い(まじない)だからです。何度もその名前を呼ぶことで、その名前に込められた願い通りの人になれるように」


薫先生は目を細めて笑うとひとつ頷いた。正解、と手刀を落とした手で今度は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。