言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


「空亡様の御体の一部が此地に在りと聞き参じたが、既に他者の手に落ちた様子。無念」


どういうこと? 天司も空亡の残穢を探していたの? いいやそんなのどうでもいい。どうして、どうしてこんなことになった? なぜ聖仁さんがそこに倒れている? 訳が分からない、分かりたくもない。

視界が激しく歪んでいる。自分が泣いているのだと気付いた。ただ無表情で目の前に立つ天司だけはハッキリと見えている。

理性なんてない。ただ腹の底から湧き出る怒りが自分の体をつき動かした。握った拳を振りかざし勢いよく駆け出す。

拳は届かなかった。届くよりも先に強い力で手を引かれたからだ。確認するよりも先に体を引き寄せられて、天司とは反対の方向に走り出す。聖仁さんの骸が、どんどん遠ざかっていく。


「泰紀は亀世さんと走れッ!!」


私の前を走る背中がぼんやりと見えた。歯を食いしばり、色んな感情を必死に飲み込んでいる横顔だった。


「離して恵衣くんッ! 聖仁さんが、聖仁さんが……!」

「分かってる! でも俺は生きてるお前を守る責任があるんだよッ!」


聞きなれた怒鳴り声。でもその声には隠しきれないほどの動揺があって震えている。

必死に振り返った。天司が錫杖を振りかざしているのが見えた。


「いやッ……お願いやめて! 聖仁さんッ!」