「ほらチャキチャキ動き! もうあと2時間で会合やで!」
「会合ちゃうやろ、ただの宴会やわあんなん」
け、と吐き捨てた志らくさんは次の人参に取り掛かりながら唇を尖らせた。
二人がここへ呼ばれたのは、これから行われる"会合"の前に出す食事の支度をするためだ。驚いたことに千江さんや彼女の夫でまなびの社の現宮司吉祥さんは、先の戦の時からかむくらの神職の一員だったらしい。志らくさんは今回から仲間入りしたと言っていた。
そして今日は全国各地に散ったかむくらの神職たちが数十年ぶりに集い話し合う"会合"が開かれる日で、朝からバタバタと騒がしいのはそのためだった。
「千江さん、邪魔してすみません。ちょっと水汲ませてください」
たまのれんを押し上げて顔を見せたのはバケツを小脇に抱えた禄輪さんだ。
「禄ちゃんも人が悪いわァ。何年も連絡よこさんかったくせに、急に飯作りにこいって」
はぁ、とため息をこぼした志らくさんに居心地が悪そうに肩をすくめる。
そういえば禄輪さんと志らくさんは知り合いだったっけ。
「ほんで禄輪、そのバケツどないすんの」
千江さんが怪訝な顔で尋ね、禄輪さんは反対の手で握っていた水仙の花を掲げる。
「大事なお客様もいらっしゃるので、水仙を生けて飾ろうと思いまして」



