行方不明事件なのだから、行方不明者は生きているものとして探すのが普通だ。本庁の役人たちも一番最初に失せ物探しで陽太くんを探した時は、生きている前提で探したに違いない。
でももし、陽太くんがあの時点で亡くなっていたら?そしてその時点で現世に激しい未練を抱いていたとしたら?
霊は荒御魂が活性化している状態。つまり人が霊になるのは、後悔や怨みの強い感情で荒御魂が活性化した時だ。
クラスメイトからは虐められ、家庭環境も複雑だった。楽しいはずの校外学習で広い山に置き去りにされた。
もしそんな状況で亡くなっていたら、成仏できるはずがない。
「陽太くんが霊になっている可能性で探すべきじゃない?」
息を飲んだのは私だけじゃなかった。
「薫先生、すぐ終わらせるんでやってみてもいいですか?」
ひとつ頷いた薫先生。
すぐさま持っていた小瓶を薫先生に託し、白衣を正して胸の前で手を合わせる。
奏上するのは、失せ物探しの呪歌。探し物が近ければ大きく、遠ければ小さく滝が落ちる水飛沫の音が聞こえる。
聖仁さんはゆっくりと息を整えて目を閉じた。
「────清水の 音羽の滝は 尽きるとも 失せたる辰巳陽太の荒御魂の 出でぬことなし」



