「────巫寿ちゃんは手際がええわぁ。無駄がない、無駄が。ほんまうちの志らくとは大違いやわ」
「いやいやそんな」
「あらぁ、じゃがいもの皮剥き包丁でできるん? うちの志らくとは大違いやわ」
「い、いやぁ」
「ほーんま、うちの志らくとは……」
うるさいでお母さんッ!
後ろでゴミ箱を抱えピーラーで人参の皮むきをしていた志らくさんがそう噛み付く。これでかれこれ五度目のやり取りに苦笑いだ。
「千江さん、そろそろお豆腐入れますね」
「はいはいよろしく」
ほーんま志らくとは。お母さんホンマいい加減にしてッ!
言い合う二人を「まぁまぁ……」と宥めながら味噌汁の鍋をくるくるとかき混ぜた。
千江さんと志らくさんは一年生の三学期に行われた神社実習でお世話になった"まなびの社"を管轄する花幡家の人達だ。
千江さんの娘である志らくさんは、鼓舞の明という授力を持っており、同じ力を持つ私に力の使い方を教えてくれた師匠でもある。
そして。
「あんたも志ようも、昔っから料理の手伝いだけはギャーギャー文句言いながらやってたな」
志らくさんは先代の審神者である奉日本志ようさんの妹でもある。二人の苗字が違うのは、審神者になる者の決まりで巫女は苗字を奉日本に改めなければならないからだ。



