「高天原に坐す神々の御前に申し上げ奉る」
空気が変わった。濁りが渦巻く本殿の中に清らかな風がふわりと芽生える。
「邪霊 怨霊 悪鬼 悉く退散し」
これは鎮魂と調伏の祝詞、荒ぶる魂を鎮める詞。
明朗な詞が室内に響きわたる。花火が打ち上がる時の音みたいにお腹のそこをビリビリと震わせる。まるで圧倒的な力を前にした時の武者震いのようだ。
「清き光の御力にて ここに調め鎮め給へ……!」
最後の一文が力強く唱えられた。
おぞましい悲鳴をあげた童鬼は、十数秒叫んだ後まるで電池が切れたロボットのようにばたんと後ろにひっくり返った。
室内は怖いほどに静まりかえる。
「みんな動かないで。油断しないでね」
薫先生が前に出た。小走りで童鬼に駆け寄って「どんなもんかなぁ?」と顔を覗き込む。
「おっ、上手いことやったね。気絶してるだけだから、今のうちに残穢を取り出しちゃえばそのうちケロッと起きてくるよ。今回は残穢が小さい上、受肉して日が浅いみたいだし」
「なんだよ。腹を切り開けないじゃないか」
がっくりと肩を落とした亀世さん。相変わらず物騒すぎる。
ため息を零しながら童鬼に歩み寄った亀世さんは顔の横に腰を下ろすと、物珍しそうに物色を始める。



