初めて会った時は神々廻芽の配下にある黒狐族と聞いてぎょっとしたけれど、黒貫さんは私たちの味方でありかむくらの神職の一人だ。

先の戦から禄輪さんを右腕として色んなところに潜入し情報収集の役を担っていたらしい。見た目はまさしく好青年、と言った感じで人当たりもいい。


「禄輪のやつ、妖使いが荒いんだよな。ほんと、一回ぶちのめしとかないとだね」


好戦的な黒狐の性質はしっかりあるので、たまに黒い部分が見え隠れするのが玉に瑕だ。

初めて会った時も笑いながら指を切り落とされた話をしていて、言うまでもなくドン引きした。


「それにしてもこの布団なんですか? 下の階も慌ただしいし、さっき禄輪さん叫んでましたよね?」

「ハハッ、叫んでたね。あいつは綺麗好きだからな。あと2時間もしたら集まり始めると思うから、それまでには何とかしたいんだろ。賓客もいるし」


集まり出す? 賓客?
屯所に誰か来るんだろうか?

今日は何かあるんですか、と訪ねようとした時、階下から「巫寿ちゃーん? 上おるんやろ、ちょっと手伝(てつど)うて〜」と呼ばれる。

聞き覚えのある声に「うん?」と首を捻る。


「手伝ってくれてありがとう。俺の方はもういいから、行ってきな」

「はい」


空き部屋の前に布団を下ろして小さく頭を下げる。そしてパタパタと階段を駆け下りた。