かむくらの屯所に匿われることになった翌日。その日は朝から屯所内が忙しなく、午前六時の「誰だ! こんなもの置いておいたのはッ!」という禄輪さんの怒鳴り声で目が覚めた。
のっそりと布団から抜け出してぼんやりとした頭で部屋から顔を出す。すると文字通り目と鼻の先をドタバタと誰かが通り過ぎた。
「わっ」と声を上げて慌てて首を引っ込めると、「おっとごめん!」とその人が振り返る。
抱きつくように大量の敷布団を抱えたその人は、頭に生やした黒毛の獣耳をピクピク揺らした。
「この声は巫寿ちゃんだ。ごめんごめん、この通り前が見えなくてさ」
敷布団に顔が埋まっているのかくぐもった声が私の名前を呼ぶ。
黒い獣耳に紫色の袴、この人は。
「黒貫さんですか?」
「ああ、そうだよ────っと!」
腕の中から敷布団が滑り落ちそうになり慌てて下を押さえる。
すまんそのまま手伝ってくれ、と苦しそうな声で頼まれて二つ返事で引き受ける。何枚か引き取るとやっと目が合った。
「いやぁ助かった」
水中から浮上して息継ぎをするかのように大袈裟に息を吐いた黒貫さんは目尻に皺をよせてカラカラと笑った。
妖狐の妖、黒狐の黒貫。彼は黒い毛並みを持つ妖狐の妖だ。
彼と会うのは今日で三度目、一度目が八瀬童子の里にかむくらの神職が駆け付けた時、二度目が二学期の終わりごろに前回の一件で事情聴取を受けた時だった。



