「俺は何も答えなかった。というか、答えられることがなかったからな。ふくらの社がどこへ消えたのかは未だに誰も分かっていない」
ごくりと唾を飲み込んだ。
そうか、そういう事だったのか。
芽さんは國舘剣を盗むと同時に、隆永宮司にふくらの社の在処を尋ねた。芽さんが消えたふくらの社の行方がただ気になって尋ねるわけがない。つまり用があるのはふくらの社ではなく、社の中に保管されている払日揮毫筆ということ。
偶然三種の神器のうち、二つを盗み出そうとしていたはずがない。
芽さんは三種の神器を探しているんだ。
「賢い君らにならもう分かったろ。だから、芽よりも先に三種の神器を探し出すために俺はあの社を出た。先に見つけて芽を止めるためだ。宮司のままじゃ自由に出歩くことができないし、またいつ俺を襲いに来るかも分からないからな」
真言権宮司から話を聞いて、なんとなく隆永宮司は自分勝手で無責任な人なのだと思っていた。
悲しみに暮れて息子たちから目を逸らし、社も役職も放り出して逃げ出した人なのだと。
でも今目の前にいる人は、自分勝手でも無責任でもない。逃げ出した人でもない。
「隆永宮司は……」
ん?と宮司は私と目を合わせる。
黒い瞳は何にも染まらず、芯の強さを秘めている。薫先生と同じ優しくて強い人の目だ。
「隆永宮司はまだ……薫先生と芽さんを愛してますか?」
唐突な質問に驚いたのか、二、三度目を瞬かせた。そしてフッと表情を崩し頬笑みを浮かべる。
「────どんなに馬鹿なことをしたとしても、俺と幸の大切な息子たちだよ」



