「そうだ。払日揮毫筆は空亡発生時に一番最初に被害を受けたふくらの社が保有している。これは模造品じゃない、間違いなく本物だ」
空亡が現れたのは陽太くんが行方不明になった例の山で、その後の足取りは分かっていない。けれど唯一ふくらの社でその姿が確認され、当時の社の神職による報告でその妖が空亡であることが分かった。
聞いた話によるとふくらの社の神職は空亡が現れたその瞬間、社の鳥居を閉ざし、社を封鎖した。
社の鳥居を封鎖するということは、現世にも幽世にも出入りすることが出来なくなるということ。ふくらの社とその神職は、その日言葉通り姿を消してしまった。
そのふくらの社に、三種の神器のひとつがあったということ?
隆永宮司は湯呑みを置くと突然着物の前合わせに手をかけて右肩を出した。
急に何をと頬を赤らめるよりも先に、太い蚯蚓脹れになった傷跡に息を飲んだ。何本も縦横に走る傷跡は眉を顰めるほど痛々しい。
「あの日、芽に斬られた刀傷だ。アイツは俺を脅してふくらの社の場所を聞きだそうとした」
「……なぜ、ですか」
「ふくらの社の宮司とは神修時代からの同期だ。社が閉ざされたと聞いて、俺は個人的に社がどこへ消えたのかずっと調べていた。俺なら何か知っていると思ったんだろうな」
なんともないような顔をして答えた隆永宮司は静かに着物を正す。



