宮司は鍋をコンロの上に置いて火にかけた。ジジジ、と音を立てて火が回る。赤い炎が鍋の底でゆらりと揺れている。
「……國舘剣」
僅かに隆永宮司の肩が震える。
「真言権宮司を権宮司に任命した時、宝物殿にある國舘剣の話をされましたよね。わくたかむの社の宮司に代々口頭で引き継がれてきた何かです。宮司だけが知る秘密ですし、流石に真言権宮司も私には話してはくれませんでしたけど、なんとなく分かったんです」
「……分かった、だと?」
隆永宮司が振り返った。真剣な目はどこか気迫があって肌が粟立つ。
眞奉、と心の中で名前を呼ぶ。空気中にぼわりと小さな火種が生まれ、オレンジ色の炎は少しずつ大きくなって人の形をなしていく。
驚きで丸くなった隆永宮司の瞳に、炎の翼が映った。
「君」
跪いた眞奉が、両方の手のひらに乗せたそれを恭しく差し出す。鞘の真ん中を掴んで受け取る。
柄に手をかけてゆっくりと刀身を引き抜いた。刃がぬらりとひかる。
「"わくたかむの社の宝物殿にある國舘剣は偽物だ"────隆永宮司は真言権宮司にそう伝えたんじゃないでしょうか」
隆永宮司の瞳が動揺で忙しなく揺れる。
なんで、消えかかるような声でそう呟いた。
「私が持っているこの刀こそが、本物の國舘剣だからです」
真言権宮司に話を聞いた時からずっと違和感があった。



