言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー


ザァッと鍋に水が入る音と、灯油ストーブの火が燃える音が響く。

ゴクリと唾を飲み込んだ。


「私たち、薫先生の教え子です」


小豆を洗う音がピタリと止んだ。数秒固まった隆永宮司は、「そうか」とだけ端的に答える。


「俺たちは薫先生の教え子で、神々廻芽に命を狙われました」


恵衣くんが続けた。

今度はぴくりとも反応しなかった。


「昨日真言権宮司から、神々廻家に何があったのかを聞きました。芽さんが裏切って空亡側についたことも知っています。そのうえで、私たちは芽さんが何をしたいのかを知りたいんです」


ザッザッと、小豆を洗う音が沈黙を紛らわせる。

広い背中をじっと見つめた。


「隆永宮司は、神々廻芽が何をしようとしているのかご存知なんじゃないですか?」


恵衣くんの静かな問いかけに、小豆が擦れる音が止まった。耳に痛いほどの沈黙。心臓がバクバクと拍動する音が体の中から聞こえる。


「……この俺が知ってるわけないじゃないか。なんせ俺は息子たちも社も捨てて逃げ出した、ろくでなし宮司だからな」


声色が硬い。私たちには何も話すつもりは無いという強い意思を感じる。

つまり裏を返せば、隆永宮司は何かを知っているということだ。