初めて訪ねた時、違和感があった。
例えば座布団が最初から二つ出ていたり、使い終わった湯のみが二つテーブルの上に置きっぱなしになっていたり。
娘は嫁に出たあと亡くなったと言ってたから間違いなく一人暮らしをしているはずなのに、あの家には形容しがたい二人分の人の気配が強く残っていた。
「お前そんな所まで見てたのか」
最寄り駅を降りて寂れた商店街を歩きながら、恵衣くんがちょっと引いた顔をする。
「ドライヤーを借りた時、そういえば洗面所に歯ブラシが2本あったなって」
「……女って」
不自然にそこで言葉を止めた恵衣くん。
何?と聞き返すも小さく首を振って少し歩くスピードを速めた。
目的地の前まで来た。店先に出された「本日臨時休業」の文字に目を丸くする。
「どうしよう、今日お店お休みだって」
「別に店から入らなくても、自宅の玄関のチャイム鳴らせばいいだけだろ」
焦る私に呆れた目を向けた恵衣くんは二階の自宅を指さす。
おっしゃる通りだ。
「じゃあ二階に……」
言いかけたその時、ざ、と少し後ろの方で誰かが歩みを止める音がした。
「すみません、今日菓瑞は職人不在でお休みを頂いておりまして」
清志さんではない落ち着いた低い声に、弾けるように振り返る。



