言祝ぎの子 漆 ー国立神役修詞高等学校ー




ただの悪い人なんだと思いたかった。

沢山の神職を、私の仲間を、先輩を。いちばん大切にしなければならない薫先生を傷つけたのだから、悪い人でいて欲しかった。

でも色んな人の話に出てくる神々廻芽は成績優秀で誰にでも平等に優しく、人望もあって親友もいた。仲間を裏切り傷つけるような人物には思えなくて、ずっと不思議だった。


どうして変わってしまったのだろう? 何が彼をそうさせたのだろう?

神々廻芽があんな風に変わってしまったのは、大切な人を失ってしまったからなんだ。


両親がどう出会い双子がどうやって生まれたか、呪われた弟として忌避された薫先生の幼少期、分け隔てなく愛してくれた母を失った日、それぞれの場所で過ごした多感な時期、再会し唯一無二の存在となった双子、そして決別。

薫先生と神々廻芽がこれまで歩んできた道のりはあまりにも壮絶で、私なんかが涙を流していいはずもないのに目頭の熱を我慢することが出来なかった。


「私は、幸さまの命日が来る度に己の過ちを悔いているんだ」


真言権宮司は目を伏せて畳をさらりと撫でた。

ここは幸さんの部屋だったはずだ。


「私があの時、芽さまもいなくなったことを幸さまへ伝えていなければ、幸さまが道場へ行くことはなかった。幸さまが死ぬこともなかった。幸さまが生きていればきっと、芽さまの心を守ってくださった。隆永さまが変わってしまうこともなかった」


穏やかな声には迷いがない。迷いなくそう言えるほど権宮司は日々そう思い続け、己を責め続けたのだろう。